にっこりと微笑んでいた教授の顔付きが変わった。そして鍵盤に指を這わせると、静かなメロディーを奏で始めた。
 リアンは目を閉じ、その後も続くピアノの音の世界を泳いだ。
 昨日もそうだが、教授のピアノは心が洗われる洗礼されたものだ。
 比べる事は出来ないが、世界的なピアニストの祖父のマドルスのピアノでさえ、これ程心打たれた事はない。それをリアンは無意識に感じていた。
 リアンが目を閉じて聴き惚れていると、いつの間にか教授のピアノの演奏が終わっていた。

「リアンは今の曲、聴いた事あったかい?」

「いえ、初めて聴きましたが、素晴らしい曲ですね」

 未だうっとりとしている顔が、それがお世辞ではない事を物語っている。

「今の曲、弾けるかい?」

「はい、弾けます」

 今度はリアンがピアノの前に座り、鍵盤に指を這わせた。
 リアンは目を閉じ、今聴いたばかりの曲を奏でていく。頭で思い出そうとしなくとも、勝手に指が動くのだ。

「…ほほう」

 教授は関心した。そして、教授は自分の演奏とは異なり、少しアレンジを加えながら弾いているリアンの演奏に、聴き入っていた。

「…どうでしたか?」

 演奏を終えたリアンは、目を閉じている教授に尋ねた。