「…うまいか?」

「はい、おいしいです!」

 パンはまだ温かく、焼き立てなのだろう。ほのかに湯気が立っている。

「そうか、そうか」

 教授は孫を見るような優しい目付きで、リアンを見詰めた。
 見詰められている事に気付いていないリアンは、焼き立てのパンを食べながら、ある事を考えていた。
 それはこのパンは、教授が買ってきたのかどうかという事だ。ホームレスの格好をしている教授に、お金なんかあるとは思えない。

「…教授、このパン買ってきたんですか?」

 リアンはパンを置き、尋ねた。

「ん?そうじゃよ。どうしてだ?」

「…お金、大丈夫なんですか?」

「金?あぁ、ホームレスのわしが金持ってたらおかしいだろ。でもわしは金持ちのホームレスなんじゃ。気にせず食べてくれ」

 教授はそう言うと、笑顔をこぼした。

「…そうなんですか?…ありがとうございます」

 それが教授の優しいジョークだと思いながらも、リアンはありがたくパンを頂くことにした。

「ところでリアン。ピアノは好きか?」

「はい、好きです」

「そうか、わしも大好きじゃ。リアンはバッハとかショパンとか、有名どころの曲、全部弾けるのか?」