「…ふぁ」

 リアンは、小屋の中に敷いた布団の中で目覚めた。
 これは他の生活必需品と共に、宴会が終わって直ぐに、教授が持ってきてくれた真新しい布団である。
 布団から起き上がったリアンは、真新しい歯ブラシを持ち、小屋の外へと出て行く。そして歯を磨いた後、小屋の裏にある水道の蛇口を捻り、口を濯いだ後、顔を洗った。
 リアンは昨夜、教授からこの水道の事を聞かされている。この水道は、誰に咎められる事もないので、自由に使って構わないとの事だ。しかし、何故使っていても、誰にも咎められないのかは、リアンは理由を聞かされてはいない。

『水道は堂々と使うべし』

 昨夜教授は、笑顔でこんな言葉をリアンに伝えている。
 その笑顔があったからこそ、リアンは遠慮せずに、この水道を使っているのだ。
 顔を洗い終わったリアンは、タオルで顔を拭くと、頬をぴしゃりと叩いた。
 小屋に住めると云えど、住所を無くしたリアンに不安がないといえば嘘になる。しかし、大好きなピアノがある小屋で暮らせる喜びがあった。

「…弾こう」

 顔を洗い終えたリアンは小屋に戻り、ピアノの鍵盤に指を這わせる。
 静かな朝に、鳥のさえずりに紛れ、美しいピアノの音が木霊していく。

「コンコン」

 丁度演奏を終えた所で、ドアがノックされた。