最近二人の間では、朝の坂道競走が流行っている。いつも勝つのはドニーだったが、「今日こそは」という気持ちで、リアンは両手を思いっきり振って、無我夢中で走った。

「ハァハァ…」

 リアンが疲れ切った足を震わせ、息を切らして坂道の途中で立ち止まろうとした時、ドニーが鼻水を拭いながらリアンの方へ振り返り叫んだ。

「あとちょっと!がんばれリアン!」
 
 ドニーの声援を聞いて、リアンは力を振り絞った。

「ハァハァ…ハァハァハァ」

 リアンはドニーと共に、永遠とも思えた坂の頂上に辿り着き、肩で息をする。
 
「やったー!リアン!一回も立ち止まらずに登り切ったね!」

 ドニーははしゃぎながら、自分の事のように喜んだ。
 リアンはゆっくりと後ろを振り返り、今まで一度も一足で登り切れなかった坂の頂上から見える街の風景を見渡した。
 商店街の建物が、いつもより小さく見える。

「よし!今度は学校まで競走だ!」

 ドニーがそう言うと、二人はまた駆け出して行った。
 学校に着いたリアン達は、二人きりの教室で、先生が来るのを静かに待った。
 去年の今頃、まだあと十人は居たクラスメートも、とうとう二人きりになってしまっている。

「リアン、学校終わったら…」

「しっ、先生がもう来る頃だよ」

 リアンはドニーの言葉を遮った。

「…コツコツ」

 静寂の中、足音が聞こえてきた。
 その音は確実にリアン達に近付いてきている。

「…コツ…コツ」

 足音はリアン達の居る教室のドアの前でピタリと止まった。そして、ドアが静かに開いた。
 教室に入ってきたのは、担任のライアという女の先生だ。