音を確かめる必要はない。
 このピアノの事はなんでも知っている。
 リアンはあの日に戻ったかのように、何の迷いも無く、鍵盤の上で指先を踊らせた。柔らかで心地良いメロディが室内に響き始めた。
 そのメロディにジョルノの瞼は自然に閉じた。その表情は、とても穏やかだ。
 鍵盤の上で動き続ける指先は、リンクの上で踊るフィギュアスケーターのように、そのメロディに乗り、滑らかに動いている。
 リアンが夢中で弾き続けていると、男が小屋に入ってきた。
 その男は、目を閉じ演奏を聴いているジョルノの横の椅子に座ると、リアンのピアノに耳を傾け、うっとりとした表情を浮かべた。
 どのくらい弾いていただろう。夢中で引き続けていると、小屋の中にはジョルノ以外に、三人のホームレスらしき姿をした男達が座っていた。
 ピアノの音が止んだ。
 余韻に浸っているのだろう。皆はまだ瞳を閉じている。そして暫くすると、男達は立ち上がり、リアンに拍手を送った。
 リアンは照れ臭そうに頭を下げると、ジョルノの元へ駆け寄った。

「リアン、皆を紹介するぞ」

 ジョルノはそう言うと、男達を紹介した。
 髪がぼさぼさで、痩せ細った男の名はショルスキ。
 分厚い壊れた眼鏡を掛けているのはビスコ。
 オレンジ色の派手な上着を羽織っているのがスワリ。
 皆が皆、それぞれが個性的なメンバーだ。

「みなさん、よろしくお願いします」

 リアンは礼儀正しく頭を深く下げた。

「リアンは、教授ぐらいピアノ上手いな」

 ジョルノの言葉に、皆は一斉に頷いた。

「教授?…教授って誰ですか?」