男はそう言うと、にっこりと微笑んだ。
 リアンは、この隣町に来るのは初めてだった。無論、町の名前は知ってはいるが、その程度しか知らない。
 リアンが生まれ育った町に比べ、この町は少しは栄えているようだ。その証拠に、故郷では殆どすれ違わなかった通行人にも、この町に入った途端、すれ違うようになった。しかし、格好からしてホームレスと分かる男が少年に抱えられて歩く姿を、すれ違う者は怪訝な顔で見ている。

「…ここですか?」

 リアン達は、路地裏の行き止まりで足を止めた。

「そうだそうだ、ここがわしん家だ!」

 一見して粗大ゴミ置き場のような、汚れたソファーやテーブル等が置いてある一角には、ブルーシートの屋根がしてある。

「ただいま」

 男はそう言うと、その一角のソファーにどかりと座った。

「…じゃあ、僕はここで」

 リアンが帰ろうとすると、男はひき止めた。

「まぁ、茶でも飲んでいけ」

 男はそう言うと、タンスから取り出した紙に、マッチで火を着け、それを目の前のバケツに放り込むと、近くの藁や紙くずを投げ、火をくべた。そしてバケツの上に使い込まれた網を載せると、やかんを載せ、茶を沸かした。
 男の手付きは実に慣れたものだ。毎日のように茶を沸かしているのかもしれない。