「なんだお前、腹減ってるのか?」

 男はそう言うと、汚れた上着のポケットから白い紙袋を取り出した。そして紙袋に右手を突っ込むと、中から何やら取り出した。

「ほら、食べろ。美味いぞ」

 差し出した男の右手には、光沢のあるコッペパンが握られている。

「…いぇ…お腹空いてないんで」

 腹は減っているが、リアンは遠慮した。

「いいから喰え」

 男はリアンの手を掴むと、無理矢理手の平を開かせ、その上にパンを置いた。
 リアンはその置かれたパンを見詰める。
 食べたい気持ちは湧いては来るのだが、リアンは食べるのを躊躇した。
 身なりからして、ホームレスである事をリアンは理解している。
 男を軽蔑している訳ではないのだが、汚れた衣服のポケットから取り出した食べ物とあって、やはり抵抗があるようだ。

「食べろ食べろ!美味いぞ!」

 男は満面の笑みで、リアンをじっと見詰めている。
 リアンは恐る恐るパンに噛み付いた。

「…美味しい」

 冷めきったパンは少し固くなってしまっているが、噛めば噛むほど甘味が増し、空腹のリアンの胃袋を刺激する。
 リアンは夢中でパンに食らい付いた。
 男は満足そうな顔をして、リアンを見詰め続けている。