「いや!リアンが帰らなきゃ、帰らない!」

 スタルスは力任せに、リアンにしがみつくジュリエを引き離した。

「お前とはこれでさよならだ!もう二度と俺の前に顔を出すな!」

 血走った目でスタイルはリアンを睨み付けた。

「いや!放してぇ!リアァァン!」

 ジュリエは掴まれていない方の手を、リアンへと懸命に差し伸ばす。しかし、リアンはジュリエの手を掴もうとはしなかった。

「ジュリエ、帰るぞ!」

 スタルスは泣き叫ぶジュリエを引き摺るようにして、基地から出て行った。その後を追うように、執事達は俯くリアンに悲しそうな顔で頭を下げ、基地を後にする。そして、リアンだけが秘密基地に残された。
 一人残されたリアンは、屋根のない秘密基地の中から月を見詰める。
 空には綺麗な満月。
 丸い月の明かりが、一人ぼっちのリアンを優しく照らしている。
 リアンはブランコに揺られ、静かに目を閉じた。そして、そのままブランコに揺られたまま朝を迎えた。

「ぐぅー」

 リアンの腹の虫が鳴った。
 リアンはポケットに手を突っ込み、小銭を掴み出した。

「…パンも買えないか」

 手の平には僅かな金額の小銭しか載っていない。
 持ってきた金は、これが全て。
 マドルスの遺産はスタルスが管理しており、リアンには直接には渡っていなかったのだ。
 どんなに悲しくても、どんなに食欲がなくても、腹は減る。それを分からせるように、昨日から何も食べていないリアンの腹の虫は、鳴り止むことを知らなかった。
 リアンはブランコに揺られながら、これからの事を考えた。
 金もない。家もない。しかし、いくら考えてもこれからどうすればいいのか、何も浮かんではこない。その時、秘密基地の中に人影を感じた。
 リアンはゆっくりと俯いていた頭を上げ、人影の方へと視線を送った。

「…お前は誰だ?わしの別荘で何をやっている?」

 人影は喋りだした。