このリアンの言葉を最後に、暫く二人の間に沈黙が流れた。
 二人は屋根のない基地の中から、淀みない空に浮かぶ丸い月を見詰めた。

「…綺麗だね」

「…うん綺麗だね」

 そう言うと、どちらからともなく二人は見詰め合った。
 静かな夜に、二人の鼓動と息遣いだけが響き渡る。
 その静かな夜を破るように、遠くの方から人の声が聞こえてきた。たくさんの重なる人の声が、二人の居る基地へと近付いて来る。

「…リエ様……ジュリエ様」

 いくつもの人の声が近付くに連れ、二人はそれがジュリエを呼ぶ声だと気付いた。

「…ジュリエ…誰かに呼ばれてるね」

 リアンは枠だけとなった窓から顔を出し、外の様子を伺った。すると、薄暗い街灯に照らさた道の向こうから、五、六人の集団が、ライトを照らしながら近付いて来るのが見えた。その集団の一人が、窓から顔を覗かせているリアンに気付いた。

「…リアン様!」

 その声には聞き覚えがある。スタルス家の執事の声だ。
 リアンは顔を引っ込めると、思わず基地の中に身を隠した。

「リアン様!」

 執事達が秘密基地の中に足を踏み入れた。
 そして暗い部屋の中をライトで照らした。

「ジュリエ!」

 ライトを照らしていた一人の男が叫んだ。
 リアンはその声にも聞き覚えがあった。ジュリエに至っては、生まれた時から側で聞いている慣れ親しんだ声だ。