丘を降りたリアンは、宛もなく歩いている。
 これからどうすればいいのか。そんな事を考える余裕がない程の悲しみが、リアンを包んでいる。
 ふと気付いた。昔ドニーと作った秘密基地の近くまで来ている。
 リアンの足は、そのまま秘密基地へと向かった。
 薄暗い街灯に照らされている街外れにある秘密基地。雨風に曝され、手直しもされていないのだろう、すっかりと傷んでいる。
 壁には穴が開いており、台風のせいだろうか、屋根はなくなってしまっていた。
 リアンは悲しい目をしながら、秘密基地へと足を踏み入れた。
 昔はあった。しかしその役割を放棄したように、窓には一片のガラスの欠片さえも残っていない。
 屋根が吹き飛ばされている。そのせいで、薄暗い街灯の光が、室内とは呼べない建物の中を淡く照らしている。
 中は薄く暗く、完全にはっきりとはしない。しかし、それでも分かる程、中はかなり汚れている。
 リアンの視線は、ピアノが置かれていた場所に向けられている。傷んだピアノではあったが、ここに来る度、手入れをしていたピアノ。リアンが演奏し、ドニーが踊った。そんな思い出のピアノ姿は、そこにはなかった。
 秘密基地はそれほど広くはない。思い出のピアノは、この建物から姿を消したのだ。
 ピアノは無いが、枠だけとなった窓から入り込む風に、ドニーと作った思い出のブランコが揺れている。