マドルスは死んだ。
 そして、スタルスの家から家出した。
 それを言えば、スタルスの家に連絡されるかもしれない。リアンはそんな思いに駆られ、嘘を吐いた。
 ジョアンと別れたリアンは、商店街の終わりにある坂道に来ていた。この坂道は、親友のドニーと学校へと向かう為に使った道。しかし、共に歩いたドニーは横には居ない。
 リアンは夜に包まれた坂道を、悲しみに包まれながら登って行く。そして、登り切った坂道を振り返る。頂上からは、夜の街並みが見渡せた。
 リアンが暮らしていた時よりも、一目見て分かる程、電気の点いている家が少なくなっている。
 悲しみがより一層強まってしまった。
 リアンは寂しすぎる街並みと別れを告げ、目的の場所へと向う為、再び歩き出した。
 程なくして、三つの墓標が立つ小高い丘に辿り着いた。
 灯り一つ無く、月明かりの光だけが墓を照らしている。
 一つ増えた墓を見て、ジャンの死が改めて真実である事を知らされた。
 リアンの瞳からは、再び涙が零れ落ちた。
 昔は無かった墓の前に跪く。
 墓標には、間違いであって欲しい、ジャンの名前が刻まれている。

「…ジャン」

 夜を色濃くしていく丘の上で、リアンは泣き崩れた。
 ジャンとの語らいも終わったのだろう、リアンは服の裾で涙を拭くと、ゆっくりと立ち上がる。そして隣に立つ両親の墓に手を合わせると、リアンは目を閉じた。そして長い間閉じていた目を開くと、リアンは再びジャンの墓を見詰め、静かに頭を下げた。