「なんだよそれ」
「だって元、今はバスケバカだけど。部活終わっちゃったら、バスケバカ引くバスケで、バカでしょ」


 イタズラっぽく笑いながら、俺の顔をのぞきこんでくる麻子。


「……バカじゃねーし」
「テスト十六点なのに?」


 麻子が、さらに笑みを広げて言う。


「……なんで知ってんだよ」
「翔太くんに聞いた」


 ……翔太め、明日ぜってーぶん殴る。

 そうやってたわいもない話を続けているうちに、気が付くと、麻子と別れる道の角が見えてくる。

 本当に、気が付くとって感じだ。麻子と帰るときは、どうしてかよくわからないけれど、時間が経つのがすごく早い。

 英語の授業のときは、止まっているかのようにゆっくり進むくせに。マジ死にそうなのに。なんでなんだろ。

 肩には異様にでかいスポーツバッグ、心にはそんな疑問を抱えながら、俺は足取りを少し鈍らせた。

 とうとうたどり着いた曲がり角。どちらからともなく、歩みを止める。


「……頑張ろうね」


 麻子はそう言って、真剣な眼差しで俺をじっと見つめた。綺麗な瞳に一瞬息をのみ、俺は体の横で、拳を固める。