大田麻子。
麻子は女バスのキャプテンで、女子といえど、これがなかなか侮れないヤツだったりする。とくにフリースローは、百発百中ってほどうまい。
このフリースロー対決にもジュースルールが存在するのだが、残念なことに、こちらの俺の確率はジュース十本中三本だ。
昨日も俺の負けで終わっているし、今日は絶対勝ってやる。そんな風に意気込んで、練習後いつものように、麻子の姿を探していたときだった。
「麻子ちゃん切ったの、髪!」
翔太の驚きの声が、体育館に大きく響いた。
振り返って麻子の姿を視界にとらえ、俺は目を丸くする。
さっきまで練習にのめり込みすぎていて、変化に気付けていなかった。昨日まではふたつに束ねられていた麻子の長い髪が、まさしくショートカットと呼ぶにふさわしいさまになっている。
俺の視線を感じたのか、麻子が真ん丸い目をこちらに向けた。気恥ずかしさを覚えながら、俺は一歩、二歩と麻子に近づいていく。
「……なんで、そんな切った?」
麻子と、今日初の会話だ。俺たちはクラスが違うし、練習中に男バスと女バスが絡むことはないから、この時間まではそうそう話す機会がない。
「んー……だって、五月には最後の試合でしょ? ちょっと気合い入れようかと思って」