「やっぱバスケのことになると別人みたいだよなぁ、元也って」
「うっせ。なあ翔太、授業終わったらソッコー体育館行って1on1しねぇ? 今日六時間目担任の授業だし、多分早く終わるだろ」
「うげー……いいけど。でも今日はジュースなしな。俺、何回おごらされてると思ってんだよ」


 1on1で負けたらおごる。それは、俺たちの間でいつからか自然と決まっていたルールだ。十分の九の確率でジュースは俺のものになっていたから、翔太の財布はずいぶんかわいそうなことになっている。

 早水元也、高校三年生。短めの黒髪に、身長はわりと高い方で、ちょうど百八十センチ。

 勉強は苦手で、全教科赤点に引っかかるか否かの微妙なライン。いつも眠そうだとか、覇気がないだとか、友人からはよく言われる。

 けれどそんな俺でも、唯一熱意を持って取り組めるものがある。

 そう、それは――バスケットだ。自慢じゃないが、バスケではそんじょそこらのヤツには負けない自信がある。

 正直なところ、学校には部活をしに来ているようなもの。

 授業は半分ほど寝て過ごし、エネルギーを温存してやっと迎えた放課後。


「っし!! 行くぞ!」
「いってぇ!? 待てよ元也ぁ」


 チャイムが鳴ると同時に翔太の背中をバシッと叩くと、俺は教室を飛び出て、体育館へとまっすぐ走っていった。