ただ、初めて見たときには、今よりずっと感動したことを覚えている。絨毯のごとく続く淡いピンクが、これから始まる高校生活を祝ってくれているかのように感じたからかもしれない。
「おーい、早水元也(はやみもとや)くーん!」
柄にもなく感慨にふけっていたところ、おどけた声にフルネームを呼ばれた。桜から視線をはがし、顔を上げる。
視界に入ったのは、口元にニヤリと笑みをたたえた馴染みのある顔。友人の朝霧翔太が、飛び込むように俺の前の席に座った。
「なあ、知ってたか?」
朝の挨拶をすっ飛ばし、顔を近づけて聞いてくる翔太。鼻息荒ぇよ、と若干身を引きながら、俺は眉をひそめて答える。
「……いや、俺も八月のが強いと思ってたけど」
「は? なんの話だよ」
わけがわからない、といった風に、翔太も同じく眉をひそめた。
「なにって」
「俺が言ってんのは部活のこと! 体育館、今日バレー部使わねぇから、オールで使えるってさ」
「……えっ! マジで!?」
オール。その単語を聞いた瞬間、俺は眉間のシワを瞬時に消し、頬づえを外し、加えて体を跳ね上げていた。
さっきまでの気だるさはいずこへ、だ。そんな俺の様子を見て、翔太はくっくと喉を鳴らす。