「でもまたこちらに帰ってくる際にはぜひ、うちの神社に遊びに来てくださいね」
「もちろんです」

 みーこさんは再び笑顔を取り戻し、竹ぼうきで掃除を始めた。
 僕は本殿への挨拶がまだだということに気がついて、手水舎へ行って手と口をすすぐ。それが済んだ後、ハンカチで手をぬぐいながらふと思ったことを口にしてみた。

「そういえば、みーこさんの大学はいつから始まるんですか?」

 僕が来ると毎日神社にいる。大学に通っている様子がなければ、勉強をしている様子もない。そう、それはふとした疑問だった。

「大学? 私はとっくに卒業していますよ」
「えっ? みーこさんっておいくつですか?」

 女性に年齢を聞くのは失礼だと重々承知の上だ。承知していても聞かずにはいられなかった。
 そんな僕の驚いた様子がめっぽう面白かったのか、みーこさんは僕の腕をソフトに叩きながら再び笑った。
 みーこさんは不意に触れて来るから、やはり心臓に悪い。けれどこのトキメキも今日までかと思うと、なんともさみしいものだ。

「私は今年で24歳です。年女なんですよ」

 24歳か。思っていたよりも年齢を重ねていたことにびっくりしつつ、けれどしっかりしたその様子からは納得の回答だった。

「けどすごいですね。狛ねずみを祀る神社の巫女さんが子年(ねずみどし)とは……」

 なかなかシャレが効いている。神使である左右が見えて、干支である子年に生まれた女性か……まさにこの神社に生まれるべくして生まれた人なのかもしれないと、何やら神々しさを感じる。
 
「あははっ、ですよね。よく言われます」

 でしょうね、なんて言葉を戻し、僕は本殿に手を合わせようと歩き始めると、そんな僕の背中に向けてみーこさんはこう言った。

「知ってますか? ねずみって十二支の中で一番初めの動物ですよね? だから新しいことを始めるには今年はとても良い年なんですよ」
「……へぇ、それは知らなかったです」

 新しいことか……なんだろうな。いや、ここに来たこと自体が新しいことでもあるのか。
 今まで僕は田舎に遊びに来たことは数回しかないし、それも大人になってからは一度もない。それにこんなに長くここに住んだことだってもちろんないのだから。