僕と目が合った瞬間、こずえは申し訳なさそうに目をそらし、みーこさんに向けてこう言った。
「ごめんなさい。またの機会に来ますね」
「待って!」
気がつけば僕はこずえを呼び止め、彼女に向かって駆け出していた。
本能とでもいうのだろうか。何も考えず、逃げるように階段を駆け下りる彼女に向かって、僕は慌てて走る。
僕は昔から目に見えたものしか信じないたちだ。だから幽霊も信じないし、神様も信じていない。神社で参拝するのは母親から言われた昔からの習慣というだけで、本気で神頼みなどしたこともない。左右は見えるから信じたとしても、神様を見たわけでもないのだからそこは話が別だ。そんな僕だからこそ、今まで人の縁というものに信仰心に似た気持ちを持ったこともないのだ。
だけど今だけは違っていた。
こんな片田舎の小さな神社で、僕たちは二度も出くわしたのだ。そもそもここは僕たちが普段住む東京でもない。そんな僕らが出くわしたのだ。同じ時間に、同じ場所で、それも二度も。
これに縁を感じるなという方が無理な話だ。縁は見えなくとも感じ取れるもの。すなわちそれは、目には見えないけれど僕が持っている感情と同じなのだ。
「こずえ、待って!」
僕はこずえの腕を掴んだ。相変わらず華奢な腕をしている。
「ごめんなさい。まさか雅人さんがこの神社にいるなんて知らなくて——」
「こずえ、待って。落ち着いて」
取り乱しながらもこずえは僕から顔を逸らし続ける。そんな彼女の様子に、彼女の腕を掴む手に、さらに力が加わった。
「話がしたいんだ、頼むから逃げないで」
こずえとはもう会うことはないだろう。だから話すこともないだろうって思っていた。普段僕はスマホを持ち歩かない。ここに来てからほぼスマホは見ていない。
来たばかりの時は仕事のことで連絡があるかと思って気にはしていたが、それもすぐに思い直し、スマホの電源は落としたままだ。
スマホを開けばいつも仕事のことを考えているか、こずえから連絡が来るんじゃないかとどこかで期待している自分がいるからだ。
話すことはもうない。みーこさんに言ったように僕の気持ちは伝えるつもりもない。押し付けてこずえを押しつぶしたくもない。
そう思うのに、僕は今こうしてこずえを追いかけて、こずえの腕を捕まえていたのだ。
「ごめんなさい。またの機会に来ますね」
「待って!」
気がつけば僕はこずえを呼び止め、彼女に向かって駆け出していた。
本能とでもいうのだろうか。何も考えず、逃げるように階段を駆け下りる彼女に向かって、僕は慌てて走る。
僕は昔から目に見えたものしか信じないたちだ。だから幽霊も信じないし、神様も信じていない。神社で参拝するのは母親から言われた昔からの習慣というだけで、本気で神頼みなどしたこともない。左右は見えるから信じたとしても、神様を見たわけでもないのだからそこは話が別だ。そんな僕だからこそ、今まで人の縁というものに信仰心に似た気持ちを持ったこともないのだ。
だけど今だけは違っていた。
こんな片田舎の小さな神社で、僕たちは二度も出くわしたのだ。そもそもここは僕たちが普段住む東京でもない。そんな僕らが出くわしたのだ。同じ時間に、同じ場所で、それも二度も。
これに縁を感じるなという方が無理な話だ。縁は見えなくとも感じ取れるもの。すなわちそれは、目には見えないけれど僕が持っている感情と同じなのだ。
「こずえ、待って!」
僕はこずえの腕を掴んだ。相変わらず華奢な腕をしている。
「ごめんなさい。まさか雅人さんがこの神社にいるなんて知らなくて——」
「こずえ、待って。落ち着いて」
取り乱しながらもこずえは僕から顔を逸らし続ける。そんな彼女の様子に、彼女の腕を掴む手に、さらに力が加わった。
「話がしたいんだ、頼むから逃げないで」
こずえとはもう会うことはないだろう。だから話すこともないだろうって思っていた。普段僕はスマホを持ち歩かない。ここに来てからほぼスマホは見ていない。
来たばかりの時は仕事のことで連絡があるかと思って気にはしていたが、それもすぐに思い直し、スマホの電源は落としたままだ。
スマホを開けばいつも仕事のことを考えているか、こずえから連絡が来るんじゃないかとどこかで期待している自分がいるからだ。
話すことはもうない。みーこさんに言ったように僕の気持ちは伝えるつもりもない。押し付けてこずえを押しつぶしたくもない。
そう思うのに、僕は今こうしてこずえを追いかけて、こずえの腕を捕まえていたのだ。