「さぁ、きちんとお別れの挨拶をしてあげましょうか」

 みーこさんの父親はそう言い、みーちゃんの亡骸が眠る段ボールに向かって静かに手を合わせた。
 凛花ちゃんも何やら考え込むような顔をした後、みーこさんの父親と同じようにそっと手を合わせて、目を瞑った。小さな両手を顔の前に合わせながら、一生懸命何かを伝えている。別れの言葉がどういうものなのか、僕には分からないけれど、凛花ちゃんのその姿は大人となんら変わらないように思えた。

 ——それからみーこさんの父親は凛花ちゃんと一緒にみーちゃんの魂の抜けた体を土に返すために僕と、みーこさんを神社に残して行ってしまった。

「……お前、こうなるってはなから分かっていたのか?」

 いつの間にやら現れた左右に、僕はそんなことを聞いた。

「どうしてみーちゃんは昨日死んだのか? お前と一緒にいたのはなんでなんだ?」

 矢継ぎ早に質問するが、左右は特に答える気もなさそうで、僕とは視線を合わせようとはしない。
 けれど今日だけは僕に女神が味方した。文字通り僕の女神であるみーこさんだ。

「そうよ、昨日左右が用事あるって言って出かけたのはみーちゃんに会いに行ってたってこと? 今回の結末も、みーちゃんのことも教えてくれてたら私たちだって何か手助けできたかもしれないのに」

 珍しくみーこさんが左右に憤慨している。唇を紐でキュッと結んだように釣り上げて、不満な様子を露わにしている。そんなみーこさんに対しては、返事をするのがこの生意気なねずみ小僧だ。

「言ったところで結末は変わらないだろう」
「そうかもしれないけど、気持ちが変わるかもしれないでしょ。何かできたんじゃないかって後で後悔する方がいやだもの」
「何かできたんじゃないかなんていうのは、それはみーこのエゴだ」

 あっ、みーこさんの尖った唇は火山だったのかもしれない。突然唸りを上げてその山は爆発した。

「それなら私が新聞を作って依頼を受けてるのは無駄ってこと?!」

 確かにそうなる。今まで二人三脚でやってきたはずの二人が、ここに来てまさかの仲間割れだろうか。初めて見る二人の言い合いに、僕は思わず慌てふためきながら左右とみーこさんの間でおろおろしてしまう。
 左右がみーこさんに言われるはザマーミロ、みーこさんもっとこいつに言ってやってください。なんて思う一方で、みーこさんが怒り心頭に発する姿は地獄の大王よりも怖いのではなかろうか。