その時に凛花ちゃんの滑らかな頬を、一粒の大きな雫がツーっと流れ落ちていく。何度も流れていった涙。けれどその一粒はまるでシューティングスターのように凛花ちゃんの瞳からこぼれ落ちた。

 この段ボールの中に眠るみーちゃんの姿を見ていると、なんとなく凛花ちゃんがどうやってみーちゃんを隠していたかが想像つく。段ボールの中にはシミが広がっている。それは汚物によるものではないかと思う。正直匂いも強い。もしかしたらあげたミルクを猫はひっくり返したりこぼしたりしたのもあるのかもしれない。
 けれど一番凛花ちゃんが後ろめたく思っているのはきっと、倉庫の中でずっと閉じ込めていたことだろう。お風呂に入れてあげることもできず、親には反対されてどこかにまた捨てられてしまうのではないかと心配して、家にあげてあげることもできず、みーちゃんはたった一人でこの世を去ってしまったということ。
 もし僕が凛花ちゃんだったら、そんな風に考えたと思うから。

「どのみち自由はなかったんですよ」

 気がつけば僕は、そんな言葉を放っていた。

「みーちゃんみたいな子猫に何ができたのか? きっと生前は自分で餌を探すこともできなかったでしょう。なにせその段ボールの中から抜け出すことも逃げ出すこともできないような小さな存在だったのですから」

 僕は凛花ちゃんから目を逸らすことなく、さらにこう言葉を付け加える。

「だからきっと、凛花ちゃんが悔いることはないのですよ」

 どこの馬の骨かもわからない僕にそんなことを言われても、凛花ちゃんからすれば信憑性など全くないかもしれない。巫女であるみーこさんや、宮司であるみーこさんの父親から言われるのならばまだ納得もしようがあるのかもしれない。
 けれど僕はそう言わずにはいられなかった。
 だって僕には、凛花ちゃんの頬から伝い落ちる涙の雨に戯れるようにして遊んでいるみーちゃんが見えていたのだから。凛花ちゃんの膝の上に座って、それはそれは嬉しそうに。