「お前は相変わらず神使らしくもないな」

 可愛げがなければ、品位もない。紳士たるもの真摯に相手と対面すべきだ。僕は相手を敬って接するようにしている。人である僕ですらそうなのだから、神に仕える神使は紳士以上の紳士で、真摯に人と接するべきではなかろうか。

「小僧がお前の物差しで俺を図るな。そもそも人に意見を押しける地点でお前は小僧以下だな」
「こいつ、言わせておけば……!」

 やっぱりこいつだけは許すまじ! 僕は左右に向かって飛びかかるが、左右はそれをあっさりとかわす。まるで僕の行動など手に取るように見えているといった様子でだ。その涼しい顔がまた僕の怒りのボルテージを上昇させてくれる……!

「それよりも、今社務所の中にみーこと一緒にいるぞ」
「いるって、誰が……?」

 僕は思わずどきりとした。左右の言葉に怒りを覚えてすっかり抜けていたが、あの新聞に書かれていた幸せを願う女性とは誰なのか。
 社務所の中にいる人物というのはもしかすると……。

「残念だが、中にいるのは凛花だ」

 ……なんだ、凛花ちゃんか。思わず肩をがっくりと落としてた。こずえがまた来てるのかと思ってどこか期待していた自分が腹立たしい。
 万が一こずえが来ていたとして、それがどうしたというのか。また気まずい思いをするだけだというのに。

「って、なんで凛花ちゃんが? もう学校が始まってる時間じゃ……?」

 フと冷静になりそんなことを考えている間に、目の前にいたはずの左右の姿はどこかへ消えていた。
 なんなんだ、あいつ……? なんだかよくわからないが、ひとまず社務所へと向かうことにした。行ってみれば答えはわかる。そう思って、ひとまず本殿に向かって僕は最敬礼の形をとった。
 神様の御前にお邪魔すれば家主である神様にいの一番に挨拶をしなさい。と言う母親の言葉を思い出しながら、僕は禊も後回しにして真っ直ぐ社務所へ向かい、引き戸の扉を叩いた。

「おはようございます。佐藤です」

 少しすると扉は遠慮がちに開き、中からみーこさんの顔が覗いている。

「おはようございます」

 みーこさんは小声でそう言った後、人差し指を口元に当てて”シー”と小さな吐息を漏らした。
 なんだなんだ? 僕は状況が飲み込めず、ひとまずみーこさんにならって小声で話しかけた。

「さっき外で左右と会って、凛花ちゃんがここにいるって聞いたんですが……どうかしたんですか?」

 今日はテストの日だ。猫が飼えるかどうかの勝負の日のはずが、今ここにいるということは、戦う前から勝負を放棄したのだろうか。
 いいやそれは考えにくい。昨日の凛花ちゃんの様子からして、そんなことをするようには思えない。となると、凛花ちゃんに何か問題でも発生したのだろうか……?