いつもの道のりをのろのろと歩く。足を引きずるように歩いていると、いつもより時間がかかってしまい、喉がカラカラだ。神社に着いたら水を一杯もらおう。
 そんなことを思いながら、僕は豊臣神社に到着した。
 昨日みーこさんが書き直していたあやかし新聞を横目に階段を上がろうとした、その時だった。

「……ん?」

 何か違和感を感じた。視界に入っただけで中身を確認していないが、何かが違和感だった。
 階段の一段めにすでに片足をかけていた僕は、あの古びた掲示板の中を確認しようと、階段にかけた足を一歩後ろへと下げた。
 僕が目を凝らして見ているのは、今月の神社である行事内容でも、一般的な今月の占いでも、一口メモ的な部分でもない。凝視するのは、依頼された内容から占い調べた結果の部分だ。


・キヨさんが探している万年筆は仏壇の引き出しを探してみるといいでしょう。その中にお探しの万年筆は入っています。

・凛花ちゃんがみじかいきかんで良いせいせきを得るのは大変ですが、がんばることが大事。そうすれば良いけっかが得られるかもしれません。そしてみーちゃんのことは、けっかが悪かったとしても、きちんと別れのあいさつはすること。

・幸せを願う女性へ、あなたの願いは叶います。すぐに訪れるでしょう。


「……幸せを願う、女性?」

 それって……もしかして……。
 まどろんでいた瞳はカッと見開き、僕は慌てて階段を駆け上がった。昨日と同じで一段飛ばしで。なんなら途中もどかしくなって二段飛ばしをしながら。誰も見てないこの場所で僕は新たなスキルを披露した。
 ……けれど無理をしすぎたようだ。階段を上りきる前に、僕のエネルギーは底をついた。急な階段を上りきったところで僕は、ぜぇぜぇと息を荒げながら、膝に手をついて肩を大きく揺らした。
 ちょうど僕がいつでも吐けると思うほど、体力をそぎ落としていたその時だった。

「今日は特段にひどい顔をしているな」

 疲れた体に沁みる、冷たい一言。冷たい言葉なのに、僕の火照った体をさらに上昇させるとは……。今の僕は寝不足と階段を駆け上がってきた疲れと、さらにこの暑さで簡単に怒りのスイッチは入るのだ。
 普段温厚と呼ばれるクールな僕でも、今だけはそうはいかないぞ。

「お前、自分で言っていて虚しくならないのか?」

 僕が顔を上げると、手が届く範囲に左右が立っていた。いつも僕に向けて尖らせている左右の瞳は、現在全好調に僕を蔑んで見ているではないか。