「そういえば凛花ちゃん、今朝のあやかし新聞はもう読んだかな?」

 みーこさんが小学一年生の凛花ちゃんでも読みやすいようにと、なるべくひらがなを多く使い、読みやすいように文字もブロック体に変えて新聞を一から作成していた。
 凛花ちゃんの箇所を追記するだけと言っていた割に、書き始めたら全てやり直すという作業に入っていた。あまり文字を追加する場所がなかったのと、文字があまりに小さくなると掲示板までの距離が遠い、背の低い凛花ちゃんが見えづらいんじゃないかと考慮してのことだった。
 みーこさんは本当にどこまでも気遣いができる女性だ。
 キヨさんにもらった大根のぬか漬けを白ご飯とともにいただきながら、ぼーっとした頭でどうでもいい事ばかりを考えていた。
 キヨさんは今日も来ると言っていたが、どうだろう、とか。このぬか漬けものすごく美味しいし、バリンバリンといい音がなるな、とか。今日の天気予報はどうだったっけ、とか。
 眠さのあまりついつい頭がぼーっとしてしまうが、それでも何かを考えて脳を忙しくしなければならなかった。
 そうしなければ現在役立たずな僕の脳は、隙を見てこずえのことを考えようとするからだ。

「さて、神社に行くか」

 のそのそと立ちあがり、大きく伸びをする。一日ちゃんと寝なかったくらい正直僕は慣れている。大学時代はオールナイトで友人と飲みに行ったり、社会人になってからは仕事で帰りは遅く、納期前には家に帰ってからも仕事をしていたせいで、あまり寝れない時などよくあった。
 それでもこれだけ体のだるさを感じることはなかったのだが、これが歳を重ねると言うこのなのだろうか。まだ言っても20代、それは早すぎないか? と思う反面、田舎に来てから毎日規則正しく生活していたせいで、少し眠れなかったでけでも体に響いているのかもしれない。
 ひとまずばーちゃんの料理に感謝をしながら食器を洗い、洗面所で身だしなみを整えてから家を出た。

「今日も暑そうだな」

 燦々と輝く太陽を睨みつけるように見上げて、その力強い日差しに僕は簡単に屈した。寝不足の時に太陽を見上げるものではない。目がもげるかと思うほどの何かの圧を目の奥に感じ、両手で顔を覆う。
 今日はダメな日だな。なんて僕らしくもなく後ろ向きな意見が脳裏をよぎる。
 けれど日課である散歩は欠かさないと決めている。それでなければ僕はこの田舎で廃人と化すからだ。
 することがあるわけでもなく、家でグータラしていると忙しくしているばーちゃんに後ろめたい気持ちになる。畑仕事を手伝ったこともあるが、元々オフィスワークで培ってしまった体は簡単に悲鳴をあげた。部活で鍛えた体など、とっくの昔にリノベーションしてしまっていたようだ。