「あの方の依頼には、なんて書かれてたんでしょうね?」
みーこさんは筆を置いて、ふうと息をついた後ふとそんな言葉をこぼした。だけど声に出すつもりはなかったのだろう。すぐにハッと我に返り、僕に視線を投げかけながら慌てた様子で手を振った。
「あの、すみません。深い意味はないんですけど、やっぱり気になってしまって」
「ははっ、大丈夫ですよ。みーこさんの立場からすれば気になりますよね」
正直僕も気になっていた。というよりも、気になり始めていた。
さっきまでは出会ってしまった衝撃と、戸惑い、気まずさなどが先行して依頼のことなどどうでもよかったのだ。
けれど一旦落ち着いてしまえば、彼女が何を願っていたのかが気になる。別れた相手のことをいつまでも考えるのは女々しい奴だと思う反面、そもそも僕は忘れられなかったから、今ここにいるのだ。ここに逃げてきた地点で女々しさ大放出中だ。
「もしかしたら……」
そこまで口に出して、僕は苦笑いをこぼした。
もしかしたら、その好きな人とうまくいっていないのだろうか——。
そんな風に思うと、思わず胸が苦しくなる。決して僕はこずえの恋がうまくいってほしくないと願っているわけではない。そう願いたくもない。だって彼女は、僕が生涯をかけて大切にしたいと思った相手なのだから。
たとえ彼女を大切にできるのは、もう僕じゃないと分かっていたとしても。
けれど彼女を大切にできるのはもう、僕じゃないと理解している。そう分かっているだけに苦しいのだ。
「僕、そろそろ帰りますね」
「あっ、体調はもう大丈夫ですか?」
「はい、みーこさんのおかげで元気です。あっ、お見送りは大丈夫ですので、みーこさんはこのクーラーの効いた社務所でゆっくりしていてください」
僕が本心でそう言っているにも関わらず、相変わらずみーこさんは社会人の鏡のような行動を取る。
「いえ、あまりクーラーに当たってると逆に体が固まってしまうので、いい機会です」
いつもの麗しい笑顔を向けられ、僕は同じように微笑みを返す。けれどやはり、今の僕はまだ心が病に蝕まれているらしい。
そんな笑顔を見ても心が全く和まないのだ。
「しっかし、左右はどこまで行ったのでしょうね。依頼がない限り、あまりこの神社から出ることもないんですが……」
結局みーこさんは鳥居の下までお見送りをしてくれた。鳥居のところから見える田園風景と、ポツリポツリと木造の家が建つこの村の景色を見下ろしながら、みーこさんが首を小さく傾げていると……。
みーこさんは筆を置いて、ふうと息をついた後ふとそんな言葉をこぼした。だけど声に出すつもりはなかったのだろう。すぐにハッと我に返り、僕に視線を投げかけながら慌てた様子で手を振った。
「あの、すみません。深い意味はないんですけど、やっぱり気になってしまって」
「ははっ、大丈夫ですよ。みーこさんの立場からすれば気になりますよね」
正直僕も気になっていた。というよりも、気になり始めていた。
さっきまでは出会ってしまった衝撃と、戸惑い、気まずさなどが先行して依頼のことなどどうでもよかったのだ。
けれど一旦落ち着いてしまえば、彼女が何を願っていたのかが気になる。別れた相手のことをいつまでも考えるのは女々しい奴だと思う反面、そもそも僕は忘れられなかったから、今ここにいるのだ。ここに逃げてきた地点で女々しさ大放出中だ。
「もしかしたら……」
そこまで口に出して、僕は苦笑いをこぼした。
もしかしたら、その好きな人とうまくいっていないのだろうか——。
そんな風に思うと、思わず胸が苦しくなる。決して僕はこずえの恋がうまくいってほしくないと願っているわけではない。そう願いたくもない。だって彼女は、僕が生涯をかけて大切にしたいと思った相手なのだから。
たとえ彼女を大切にできるのは、もう僕じゃないと分かっていたとしても。
けれど彼女を大切にできるのはもう、僕じゃないと理解している。そう分かっているだけに苦しいのだ。
「僕、そろそろ帰りますね」
「あっ、体調はもう大丈夫ですか?」
「はい、みーこさんのおかげで元気です。あっ、お見送りは大丈夫ですので、みーこさんはこのクーラーの効いた社務所でゆっくりしていてください」
僕が本心でそう言っているにも関わらず、相変わらずみーこさんは社会人の鏡のような行動を取る。
「いえ、あまりクーラーに当たってると逆に体が固まってしまうので、いい機会です」
いつもの麗しい笑顔を向けられ、僕は同じように微笑みを返す。けれどやはり、今の僕はまだ心が病に蝕まれているらしい。
そんな笑顔を見ても心が全く和まないのだ。
「しっかし、左右はどこまで行ったのでしょうね。依頼がない限り、あまりこの神社から出ることもないんですが……」
結局みーこさんは鳥居の下までお見送りをしてくれた。鳥居のところから見える田園風景と、ポツリポツリと木造の家が建つこの村の景色を見下ろしながら、みーこさんが首を小さく傾げていると……。