「えっ?」

 手を合わせたまま本殿の前で突っ立っている僕は、いつの間にやら隣に立っていたあの少年に視線を落とした。
 少年は僕を蔑むような目で見ているのが、なんとも不愉快甚だしい。だが、それよりもなぜそんな目で見られているのかが気になった。

 僕の疑問を口にするより先に、少年はくるりと踵を返し、再び社務所の方向へと歩き始め、僕は慌てて後を追おうとした。が、挨拶を終わらせていないことに気がついて、僕は最後の一礼をきちんとした後、少年の元へと駆け出した。

「さっきから君はかなり失礼じゃないか?」

 僕はリーチのある長い足で、あっさりと少年に追いついてやった。けれど少年は振り返ろうともしない。なんて子供だ。

「僕がめんどくさい奴だって、どう言う意味だよ」

 確かに色々考えてたせいで、参拝が長かったかなー? とは思わなくもない。だが、別に何か懇願していたわけでもないのだ。放っといてほしい案件ではないか。そもそもここは祈りを捧げる場所なのだろう? さっきそう言ったのはこの少年の方なのだから。

「めんどくさそうだからそう言ったまでだけど?」
「だからそれが失礼だと言ってるんだよ。僕は年上だぞ。それも君よりもうんと年上だ」

 足して言えば、僕は君と初対面でもあり、君が奉仕するこの神社の参拝客でもあるのだ。子供だからと多めに見ていたが、やはり子供とはいえ、放ってはおけない。
 と言うか、単純に腹が立つ。

「おい、聞いてるのか?」

 僕の言葉にも振り返りもせず、スタスタと歩き続けるこの少年の腕を掴もうとしたその時だった。

「あれ、こんにちは」

 社務所から顔を覗かせたのは、巫女装束に身を包んだ、麗しい女性だった。

「参拝の方でしょうか?」

 どことなくこの緑に覆われた神社の新緑にも負けない力強いエナジーと、そよ風に靡くセミロングな髪が流れる度に、キラキラと光る髪と共に輝く笑顔と、清楚で清潔を感じさせるその巫女装束。
 何といっても、その愛らしいと言わんばかりの笑顔に僕は、思わず背筋を伸ばした。

「はい。この神社の下で手紙をくくりつけて欲しいと、どこぞの淑女の方からお願いされてしまい、やって来ました」
「あははっ、どこぞの淑女の方からの……って、依頼ですか?」

 麗しの巫女は僕に勢いよく駆け寄り、僕が手にする小さな紙の切れ端、それを細く長く折ったものを見て、彼女は輝かんばかりのきらめきをその瞳に乗せてた。