「……実は僕は、結婚を考えた女性がいました。けれどここへ来る前に別れてしまったのですが」

 コップの中を見ながら、ビビッドカラーのオレンジジュースを見つめながら、僕はぽつりとそんな言葉をこぼした。
 こんな話はするつもりもなかった。こんなカッコ悪い話を年下で麗しいみーこさんに言うつもりなど更々なかった。
 ……なかったのにも関わらず、僕がこうして口を開いてしまったのは、僕のキャパシティは思っていたよりも大きくないのかもしれない。キャパオーバー。もうこれ以上抑えきれない。あふれ出る感情を抑えられない。そんなふうに僕の脳が指示を出し、口を開かせているのかもしれない。

「……さっきの女性は、その方ですか?」

 相変わらず察しがいい。……いいや、今回に関しては僕が隠すのが下手だっただけなのかもしれない。そう思い直しながら自嘲気味に小さく笑い、僕は首を縦に一度だけ振った。

「そうなんです。3年付き合っていたんですけどね、好きな人ができたと言われしまいました。付き合う期間は長くとも別れるのなんて一瞬で驚きですよ」

 はははっ、と力なく笑い飛ばす。けれどみーこさんは笑いもせずに真剣な面持ちで話を聞いてくれている。むしろ今は笑ってもらえた方が幾分か気分は楽だったかもしれないが、女神のようなみーこさんがそんなことをするはずもない。

「まぁそんなわけで、僕がここにいるのはただの傷心旅行なんです」

 理由が情けない。しかもみーこさんは少なくとも僕より5つも年が下な相手なのに。こんなありえない場所でこずえに再会してしまったことで、僕は決壊したダムのように言葉は溢れて止まらない。
 もうなんでもいいか、と思い始めていた中で、みーこさんはこう言った。

「別れる時、あの方とちゃんと話をしましたか?」
「もちろん。けれど彼女の意思は強かったし、他に好きな相手ができたのであれば僕にはもうどうすることもできなかったんです」

 僕は仕事ばかりしてこずえを放っておいたのがいけなかったのかもしれない。けれど、そんな僕を好きだと言ってくれていたからこそ、僕は仕事に打ち込んだのもある。

「いえ、その、ちゃんと佐藤さんの気持ちは伝えましたか? 自分の思いを、どう思っていたのかをきちんと話しましたか?」

 自分の気持ちを……? 

「それは……してないと思います」

 僕が変わらず仕事に明け暮れていた間に、彼女は変わってしまったのかもしれない。そんな彼女の変化にも全く気づかなかった僕は、とことん間抜けで、滑稽極まりない。変わらない僕に対し、変わってしまったこずえ。そんな変わってしまった彼女に、僕が何を言えたのだろう。