「……まぁ、依頼主の方が撤収した内容を勝手に横聞きするのはよく無いとわかってるんですけどね」

 みーこさんは珍しくため息交じりにそう言った後、気を取り直して両手をパチンと叩いた。

「こんなことしていられないんだった。左右、今月のあやかし新聞の依頼欄を更新するから凛花ちゃんの返事、どうしよう? どう書いたらいいと思う?」

 切り替えの早さも素晴らしい。僕のこの気持ちもみーこさんのようにさっくりと切り替えられたらどれほどいいだろうか。
 僕は基本仕事にしろ日々の生活にしろ、前を向いて過ごしてきた方だと思う。マイナス部分は時としてプラスでもある。そう思って両面を見て、良い面を意識するようにしていたつもりだ。

「短期間で学業の成果を達成するのは困難な道のり。大いに努力すべし」

 なんだ、学問に関しては思っていたよりも悲観的なわけではなかったのか。それならばやはり問題は親御さんの方か。そう思っていると、左右はさらに話を続けた。

「みーちゃんとはきちんと向き合うこと。結果が悪い方向へ進んだとしても、きちんと別れの挨拶をすること」

 ……待て待て、それじゃやっぱり凛花ちゃんは100点取れないって言ってるようなものじゃ無いか。
 当たるも八卦、当たらぬも八卦。どちらに転んでも保険をかけておこうと言う意味か? 代金を取ってないとはいえ、街角の胡散臭い占いの館で占ったものではなく神社で占ったものなのに、それではあまりにも陳腐ではないか。
 僕は異論を唱えようと口を開きかけたその時、左右はこう言った。

「俺は今から行くところがある」
「えっ、どこに?」

 みーこさんがそう言い切ったかどうかのタイミングで、左右はすっと僕たちの目の前からいなくなった。
 都合が悪くなるとすぐにいなくなる。仕事のできない上司と同じじゃないか。
 そんな風に思っていると、気が利くみーこさんは僕の空いたグラスにオレンジジュースを注ぎ入れてくれた。

「佐藤さん、しっかり水分取ってください。少しは体調マシになりましたか?」

 僕はジュースを一口飲んだ後、笑顔を返してこう言った。

「はい、大丈夫です。さっきは少し暑さのせいで眩んでしまったようですね」
「熱中症に日射病。侮っていると本当に危険ですから」
「そうですね」

 僕は言葉短くそう返事し、みーこさんはジュースと一緒に持ってきてくれていたかりんとう饅頭の一つに手を伸ばした。