な、なんで? なんでここにこずえがいるんだ?
 いやむしろここどこだ? ここはあれか? 東京のどこかなのか? いや、そうじゃない。もちろんそうではない。
 けれどそうじゃないとすれば、なぜ彼女がこんなところにいるんだ……?
 ——正直は僕は、突発的にパニックに陥った。顔は引きつり体は固まったままだというのに、僕の脳みその中は宇宙にまで飛び出す勢いで飛び立っていた。

「えっと……お二人はお知り合い、ですか?」

 双方固まったまま、無言。そんな姿を見れば誰だって不思議がるだろう。その上ここにあらせられるのは他でもない麗しの女神、みーこさんだ。みーこさんが僕たちの不自然な様子に気づかないわけもない。

「あ、ああ……そうですね……」

 なんと答えたらいいものか……今の僕にはそう答えるだけで精一杯だった。すると、こずえは僕から目をそらし、麦わら帽子のつばで顔を隠した。
 なんとなくその様子は、別れを切り出された時の状況とダブって見えて、癒えかけていた僕の心がキュウと小動物のような鳴き声をあげた。

「あっ、依頼だ」

 気まずい空気を割ったのは、みーこさんのこの一言。社務所の隣にある松の木の麓にあるおみくじを吊るす紐に、一つだけ寂しそうに括り付けられている。

「まっ、待って!」

 みーこさんが社務所に向かうより先に、こずえは松の木までかけていき、そのおみくじにも似た手紙を引きちぎるように奪い取った。

「間違えました! ごめんなさい」
「えっ?」

 手紙を握りつぶしてから、こずえはみーこさんに頭を下げ、そのまま鳥居へと向けて駆け出した。
 ちょうどその時僕の隣を駆け抜けたこずえは、小さく「ごめんなさい」と懺悔の言葉を残し、僕の方を見ようともせずに階段を駆け下りて行ってしまった。

「……佐藤さんのお知り合いの方、だったんですよね?」

 みーこさんは手紙を受け取れなかったことを悔やんでいるのか、少し元気のない様子で僕の元へと戻ってきた。

「せっかくの依頼だったのに、どうしたんでしょうか?」

 僕にそれを聞いたところで答えは持ち合わせていない。そもそもなぜこずえがここにいたのかすら検討もつかないのだ。そんな僕には、彼女がどんな依頼をしようとしていたのか分かるわけもない。