ばーちゃんは一息ついた後キッチンへと向かい、ある程度下ごしらえしておいた料理と残りの調理に取り掛かり、僕とキヨさんはテレビをなんとなく流し見ながら、たわいのない会話を繰り広げた。
 三人で食事を囲み、お腹が膨れた頃、僕は再び神社へと向かうことにした。凛花ちゃんの小学校までみーこさんと一緒に行くことにしているからだ。

「それじゃ僕はまた神社に行ってくるよ」
「あら、もう行くのね? なら私も一緒に出ようかしら」

 僕に続いてキヨさんも立ち上がり、腰を両手で押さえながら曲がった背中を反らしながら。

「もう帰るんですか? もう少しゆっくりしていけばいいのに。僕が帰ってきたらトラックで家まで送りますよ」

 じーちゃんが乗っていたトラックが家の裏に停めてある。ばーちゃんも運転はできるけど、特段用事がなければ使うことがない。基本的に運転はじーちゃん任せだったばーちゃんからすれば一人で運転するのは心配なのかもしれない。
 僕としても高齢者運転の事故が多い昨今、ばーちゃんのことが心配で気が気じゃないから乗らなくていいのならそれに越したことはないと思っている。
 じーちゃんが死んでから一度も動かしていなかったらしいが、先日キヨさんを送り届けるために村の整備士さんに点検を頼んでおいたのだ。

「ちょっと用事もあるし、運動にもいいし、今日は天気もいいから私も歩いて帰るわ」
「そうですか。じゃあ神社までご一緒しましょう」

 僕とキヨさんは一緒に家を出て、そのまま神社へと向かった。

「雅人さんはおばあちゃん思いの良いお孫さんね。小梅さんも自慢でしょうね」

 何気ない会話が途切れた後、キヨさんはそんな言葉を言いながら向こう側に見える天気のいい空を眺めている。

「そんなことはないですよ。恥ずかしながらこの歳になるまでずっと田舎には寄り付かなかったのですから。最後に来たのは中学の時でしょうか?」

 それもお年玉を貰いに行った時だ。幼い頃の僕は現金なやつだった。お小遣いは増えるものではなく増やすものだと考えていただけに、確実に貰えるじーちゃんばーちゃんのいるこの田舎にはそのために毎年顔を出していた。しかも年明けてだいぶ経ってからという。
 全く誇れる話ではないな、と自分でも思う。

「それでもこうして独り身の小梅さんを心配して来てあげたんでしょ? その気持ちだけで小梅さんは嬉しいと思うわ」

 僕はただ微笑んだだけで、それ以上何も言わなかった。