僕は多分……ご年配の方に悲しい顔をして欲しくないだけなのかもしれない。
 自分が歩む道を行く人だから。自分の未来の姿を勝手に重ねているのかもしれない。たくさんのことを経験して来た人達が、心も体も衰えている時に、悲しみと言う攻撃にも似た衝撃を受けて欲しくないと思う。
 だって僕なら耐えかねない。
 彼女と別れただけで僕は虚無感に襲われた。悲しみに明け暮れた。だけど、キヨさんはもっと悲しい出来事をもっと親しい人達で経験したのだ。これ以上傷を受けて欲しくないと思うのは、人としての道理だ。
 うちのばーちゃんと同じような歳だから余計に、ばーちゃんとも重ねて見てしまって、余計に同調してしまっているのかもしれない。
 全ては憶測だが、全ては全く外れているとも思えない。

「僕、普段は東京に住んでいるんです」
「あら、そうだったの。そう言えばここで会った時も、この村の住民じゃないようなことを言っていたね。みんな若い人は外に出て行ってしまうわよね」

 キヨさんはどこか寂しそうにそう言った。キヨさんの息子さんも東京に行ってしまったっきり、長いこと帰ってこなかったのだ。それを思い出しているのかもしれない。

「今は長期休暇をもらって祖母のいるこの田舎へと来たんです。家はキヨさんの家とは反対側になるのですが、今度うちへ遊びに来ませんか? 一緒にご飯を食べましょう」
「あら、そうなの? でもいいのかしら?」
「お構いなく。ぜひ来てください。祖母も喜びます」
「そう、じゃあ今度行ってしまおうかしらね」
「ぜひ」

 祖母とキヨさんは歳が近いが、祖母とウマが合うかどうかが心配だ。キヨさんはお上品な家柄な気がするし、祖母はあんな感じの農家の嫁だ。
 だけどまぁ、合う合わないは本人達に決めてもらおう。僕が決めることではないし。

「雨、上がったわね」
「あっ、本当だ」

 さっきまで上空を覆っていたあの厚い雲は、いつの間にやら西の空へと消えていた。僕は雨の雫がキヨさんにかからないようにそっと傘を閉じた。

「せっかくだから、久しぶりにお参りしに行こうかしらね。佐藤さんもご一緒にどうかしら?」
「いいですね。ご一緒いたしましょう」

 キヨさんは手すりを使いながら一歩一歩階段を上がり始めた。上りやすいようにと思って、僕はキヨさんに渡したかりんとう饅頭を代わりに手に持ち、キヨさんのペースに合わせて、キヨさんと一緒に上り始めた。