やはり左右の考えは間違っていたのだろう。キヨさんがこんなに占いの結果を心待ちにしていたということは、本当に万年筆の在りかを知らなかったことになる。
 やはりあいつは口が悪く、凶暴な、ただのねずみ小僧だ。
 そんな風に思いながら、僕は立ち上がり階段を下りきった。

「もうご存知であれば話が早いですね。キヨさんが一刻も早く結果が知りたかったのではないかと思って、みーこさんから新聞を一部いただいて来たのです」
「あらま、ご丁寧にありがとうね。私の代わりに手紙を括り付けに行ってくれただけじゃなく、こうして結果まで……これも何かの縁だったのかしらね」

 そう言いながらキヨさんは神社を仰ぎ見た。斜面の階段を上った先にある朱色の鳥居。その頭がちょこんと僕たちが立つ位置からも見えた。

「あっ」

 思わず声を上げてしまった。するとキヨさんが首を傾げて僕の顔を覗き見ている。

「どうかしたの?」
「あっ、いえ……」

 僕は鳥居の上に座る人物が目に飛び込んで来て、思わず声を上げてしまった。遠目からでもわかる。あれはねずみ小僧である左右だ。あんな高いところに座れるのは鳥か左右くらいだ。
 僕はきちんと立ち直し、階段を下り切った。この階段を下り切ったここなら、僕が何を考えてもきっと左右にはわかるまい。5キロ外だし、神社の敷地の外だ。これで僕のプライバシーは守られる。

「そうだ、キヨさんにこのお饅頭をって、みーこさんから預かったんでした」

 滑った時もしっかりと手に握りしめて落とさなかった僕の運動神経を褒めつつ、みーこさんから預かった饅頭を死守できたことに誇りを感じながら、それをキヨさんに渡した。

「昨日のお菓子のお礼に、とのことです」
「あら、そんなのいいのに……」

 キヨさんはかりんとう饅頭の箱を受け取り、包み紙を見た瞬間、優しい眉尻はハの字を描いた。

「かりんとう饅頭……懐かしいわね。息子が好きだったお菓子の一つだわ」
「そうだったんですか」

 キヨさんはかりんとう饅頭のパッケージを懐かしむように撫でている。そんな様子に僕としてはしまった、という気持ちにさせられた。
 僕は結婚もしていなければ子供だってもちろんいない。だから息子に先立たれたキヨさんの気持ちは僕が想像するよりも辛い出来事だったのだろうし、そもそもキヨさんは旦那さんも既に他界している。きっと一人でさみしい思いをしているに違いない。
 このかりんとう饅頭はむしろそんなキヨさんの悲しみのスイッチを押してしまったかもしれないのだ。