……大学生の女の子に気を使わせてしまった。僕は大人らしくスマートに事を運ぶ術を覚え直さなければならない。そんな風に心に誓いを立てた瞬間だった。
 みーこさんが逃げるようにして社務所の中へと帰ってしまったので、僕は気を取り直し、キヨさんの家へと一人で向かうことにした。手土産と学級新聞のようなあやかし新聞を手に、再び神社の玄関口である鳥居の下をくぐった。
 急な斜面の階段を軽やかな足取りで降りて行く。上りは大変だが、下りは軽い。階段の両サイドには手すりが設置されている。それはこの神社の様子から見て少し新しいもののように見えた。
 石畳の階段でこの急斜面だ。手すりでも無いと年配の多いこの村ではこの神社に来るのはなかなか難しいのだろう。降りる時も然り、足腰の弱ったご高齢の方や子供達には手すりがなければ危険極まりない。
 けれど僕はまだまだ脂が乗る20代。こんなもの手すりがなくともへっちゃらだ。
 そんな風に軽々と階段を駆け下りていたその時だった。

「あっ……」

 僕は階段下にいる人物が目に止まり、その人物と目が合った。そんな気を許した瞬間、僕は足を滑らせてしまった。

「大丈夫!?」
「……はっ、はい……なんとか……」

 手すりに寄りかかるような体制で、僕は階段を転げ落ちるという惨事はなんとか逃れることができたようだ。手すり様様だ。

「びっくりさせないでね。心臓止まるかと思っちゃったじゃない」

 そう言いながらホッと胸を撫で下ろしているのは、僕が会いに行こうとしていた人物である、キヨさんだった。

「すみません。僕ちょうど今からキヨさんに会いに行こうと思っていたんです。それなのにキヨさんがここにいたので驚いてしまって、つい……」
「あら、そうだったの? それって、この新聞のことでだったのかしら……?」

 キヨさんの節くれた指は掲示板を指差した。昨日の今日で新聞が出来上がってるとも限らないのに、キヨさんはわざわざ確認しに来たのだろうか。しかも昨日みーこさんの言い方だと今日には仕上がってるようには思えないと思うのだが。
 だからこそ僕がこうして新聞を届けようと思っていたのに。

「毎日家にいても暇だからね。こうして散歩するようにしてるのよ。そのついでにここまで足を伸ばしてみたのよ」

 少し言い訳がましく、キヨさんは笑ってそう言った。その様子から、僕はキヨさんが新聞が出来上がるのを心待ちにしていたのだろうと感じていた。