そんな僕の姿を神様はどこからか見ているのかもしれない。ちょうど僕が礼をした後頭を上げて本殿に背を向けたその時だった。

「あっ、佐藤さん。おはようございます!」

 キラキラと眩しいばかりの笑顔を向けて、みーこさんがちょうど社務所から顔を出した。快活そうな笑みで僕に駆け寄ってくる姿に、さっきまでの不快感は完全に消え去った。
 むしろねずみ小僧のことなどどうだっていい。そんなやつ知らない。むしろ誰だそいつ……そんな風に思いながら僕はみーこさんに習って手を振った。

「おはようございます。今日も顔を出してしまいました」
「毎日来てくださってありがとうございます。平日は特に人気の少ない神社ですので、私は嬉しいです」

 そう言ってはにかむように笑う、今日も絶好調に麗しい僕の女神でエンジェルなみーこさん。ああ、今日も眼福です、ありがとうございます。
 そんな風にみーこさんに癒されていたせいで、すっかりあの新聞のことを切り出すタイミングを逃してしまっていた。
 けれど、ちゃっかり者のみーこさんが僕が話し始めるよりも先に口を開いてくれた。

「あの、昨日あの後急ピッチで新聞を仕上げて印刷したのを、今朝新しい新聞に差し替えておいたのですが、ご覧頂きましたか?」
「はい、つい先ほど。僕もあの内容について気になったので急いで上まで上がって来たのですが……万年筆は仏壇の中にあったのですね?」

 あったのですね? と聞いてみたものの、みーこさんが発見したわけではないのだからなんだか変な感じだ。そう思っていたが、みーこさんは神妙な面持ちでゆっくりと首を縦に振った。

「そうみたいです。左右が変な反応をしていたのも頷けますよね……」
「でもそれが本当なのであればキヨさんは単純に片付けた場所を忘れてしまっていたのでしょうか?」

 そうとしか考えられない。加齢とはそういうものだ。まだ20代の僕ですら数分前に置いたスマホの場所を忘れたり家の鍵を持ったかどうか思い出せなくて何度も確認したりするくらいだ。年齢が上がればもっとそういったことが身近になるのだろう。
 それにキヨさんの手紙にはこう書いてあった。大切にしまっていたはずがどこにしまったのかを忘れてしまった——と。
 ということはキヨさんは万年筆をあの仏壇に入れたのは確かで、ただそれが思い出せなくなっていただけなのだ。