「よし、行くか」

 豊臣神社の傾斜が強い階段を見上げると、まだまだ働き盛りな僕でも少し気合いを入れなければならない。気合いはあっても都会で鈍った僕の体にはかなりキツイ傾斜だ。
 さて! と1段目を力強く踏みつけた時、ふとあの掲示板が目に飛び込んできた。それは本当に何気ないもので、視線を動かすつもりなどなかったのだけれど、どこか真新しくみえたあの張り紙が目の端に飛び込んできたせいか、僕は豊臣神社の掲示板に目を向けた。
 すると、掲示板のガラス扉の向こうに貼られいているあやかし新聞の内容が、すでに更新されていたのだ。

「……は?」

 僕は思わず声が出た。だけど疑問を口に出さずにはいられなかった。

「なんだそれ? どうなってるんだ?」

 食い入るように新聞を見た後、僕は勢いよく傾斜の強い階段を駆け上がった。なんなら前半は一段飛ばしだ。久しぶりに一段飛ばしで階段を駆け上がる。こんなのは高校生以来だろうか。けれど体は高校生の頃の身体能力を継続して持ち合わせなかったせいで、簡単に息は上がり、足は重く、一段飛ばしどころか段差を飛ばさずに上ることすら困難になってきていた。
 自分の体なのに、昔と違うと言うのはこんなにも歯痒いものなのか。中学、高校とサッカー部に所属していた僕は運動はできない部類では決してなかった。スタメンでもなかったからできる部類かと言われると素直に違うと答えるが、代わりに僕は頭脳戦を好むタイプだったのだから、脳みそのシワの数では当時の部員には負けていないと思う。
 そう考えると大人になった今、僕は頭をよく使っている。働くとはそういうものでもある。となると、身体能力は衰えたとしても、頭脳的にはすこぶる伸びているはずだ。だから僕はこの階段を上るのに、こんなにも疲労しているのだろう。それは体の衰えだけではなく、僕の脳みそが重いせいだ。

「……相変わらずめんどくさい奴だな、お前」

 ちょうど僕が神社の鳥居に到着し、鳥居の前で膝に手を置き息を整えていた、そんな時だった。
 声の主は僕の頭上から聞こえる。きっとこの大きな鳥居の上に座って僕を見下ろしていることだろう。その相手を確かめなくとも、そこにいる人物が誰なのかはこの僕にはとっくに分かっていた。
 そこにいるのは僕の天敵で、憎っくきねずみ小僧だろう。

「誰がねずみ小僧だ」

 淡々としたツッコミが、今度は僕の右隣から聞こえる。僕はこめかみから垂れてくる汗を拳の背でぬぐい、息を整えて顔を上げた。