「……なんだ、お前意外とちゃんとしてるんだな」
「おいおい、初対面の年上に対してお前呼ばわりとは、あんまりじゃないか?」

 さすがの俺もその物言いには引っかかった。その上この少年は幼いとはいえ神職に使える者。たとえこの神社の後継だとしても、それでもその言い方はないんじゃないかと思っていた。

「そんなことより、手を洗いに行くんだろ? 案内してやるよ」

 そんなこととはなんだ。そんなことではないし、そもそもそのセリフを言うのはこの少年ではなく、僕が言うセリフだろう。
 その上、案内してやるよとはなんという言い草か。僕は憤慨しそうになりながらも鳥居をくぐってすぐにある手水舎へと向かった。

「……お前、その洗い方まで知ってるくせに、なんでハンカチ持ってないんだ?」

 左手、右手の順に柄杓を使い手をすすいだ後、さらに手に水をすくい口の中もすすいだ。そして柄杓の柄の部分を残りの水ですすいだ後、拭くものがないことに気がついた僕は、手を振って水分を飛ばし、ジーンズの裾で手を拭った。

「仕方ないだろ。元々来る予定じゃなかったから、拭くものなんて持ってないんだよ」

 ふーん、と僕の姿を足の先から頭の先まで見やった後、少年はさらにこう言った。

「それにしたって、やっぱり変な奴だな。禊の仕方を知ってるのになんで神使のことを知らないんだ」
「これ、禊になるのか?」
「ああ、簡易のな」

 ちなみに手の洗い方に関しては母親仕込みだ。母さんは神社やお寺が好きなのだが、別にそこに縁やゆかりがあるわけではない。子供の頃に教えられたから知っているだけで、僕自身は別にさして神社やお寺に興味があるわけではない。

 僕は基本的に、何事も卒なくこなせるように広く浅い知識を持つように心がけている。そうすると人とちょっとした会話の時に困ることはないし、会話がなくて地獄のような無言の重圧すら、打破することだってできる。

「ところで、あの新聞って、この神社の神主さんが作ってるのか?」

 今時はそうまでして客寄せを頑張っているのだろうか。などと考えていると、少年は僕の足を踏んづけた。