神社に戻ると、みーこさんの父親が神社下の階段を掃除しているところだった。

「あっ、おはようございます。佐藤さんも満己と一緒だったんですね」
「キヨさんの家に行こうとしていたらばったり会ったから、付き合ってもらっていたの。お父さん、掃除代わるね」

 みーこさんは父親から竹ぼうきを掴み取り、父親の代わりに続きを掃き始めた。掃除ですら楽しそうに鼻歌を歌い、踊るように掃き掃除をするみーこさんは、女神様ではなく天使だろうか。愛らしいことこの上なく、そのほうきで階段を掃くたびに僕の心の中にある薄汚い何かも浄化されていくような気がする。

「掃ききれないほど濁ってるからな。そう簡単にお前は浄化されないだろうな」

 なんて失礼な言葉を吐いた左右は、僕の隣を通り抜けて階段をのぼり始めた。
 このねずみ小僧め……静かになったかと思えば、口の悪さだけは一向に変わらないんだな!
 僕は握りこぶしを作り、必死に気持ちを落ち着かせる。昨日は取り乱してしまったが、ここは大人な余裕を見せなければいけない。いつまでも左右の手の上で転がるほど、僕は馬鹿ではないのだから。

「満己、佐藤さんを無理にけしかけてはいけないよ」
「あっ、いえ、僕がついて行っただけなので、みーこさんにけしかけられた訳ではないんです」

 昨日あんなに断っていたくせに、結局今日はキヨさんの家に一緒に行った。それは紛れもなく僕自身の意思だ。昨日の流れだけを知っているみーこさんの父親からすれば、みーこさんが無理やり誘ったように思えるのだろうが、それはとんだ早とちりだ。

「そうでしたか。それでしたらいいのですが」

 朗らかに笑うみーこさんの父親。どこか力が抜けるようなふわふわとした人物だ。しっかり者なみーこさんとはかなりタイプが違うように思えるのは、きっとこういう父親だからこそみーこさんが支えなければと感じているのかもしれない。
 なんてお節介にも人様の家庭事情を考察していると、左右はとっくに階段をのぼり切ったのか姿が見えなくなっていた。

「それで、キヨさんはどうだったんだい? 万年筆は見つかったのかい?」
「それが、左右が言うにはキヨさんは多分、万年筆のありかを知っているみたいなの」
「ふーむ、それは変だね。知ってて依頼してくるのは初めてのパターンじゃないか」

 みーこさんの父親はそう言いながら考え込むように顎に手を置き、首を傾げた。不思議なのがみーこさんの父親が言うと、おかしな出来事もさほどおかしく思えなければ、深刻な事もそれほど深刻でないように聞こえる。