「左右はずっと家の中をウロウロしていたんだと思います。私が依頼主の方とコミュニケーションを取っている間、左右が探し物をするというのがいつもの流れなのです」
「そうだったんですか」

 5メートル以内のものしか見つけられないのであれば、きっと僕たちがお菓子を食べながら話をしている間、左右は家宅捜索でもするように家中をうろついてたってわけか。ますます泥棒と変わらない神使だな。まさにねずみ小僧のようではないか。
 そう思った瞬間、僕は慌てて口を両手で塞いだ。いや、口を塞いだところで僕は声に出して言った訳ではないから意味がないのだが。
 そろりそろりと隣を歩く左右に視線を向けると、これほどまでに鋭利な形の目を見たことがないというくらい、左右の瞳は尖り、僕を見上げていた。

「俺は泥棒などではない。お前、いつか祟ってやるからな」

 昨日のような攻撃を受けるのではないかと心配したが、左右は意外にもそんな末恐ろしい言葉を吐き捨てただけだった。
 いや、本当に祟るつもりかもしれないから、それならば物理的な攻撃よりも強力で危険なものなのだろうが……。

「ところで左右、キヨさんの息子さんの形見である万年筆は見つかったの?」
「……キヨはすでに万年筆のありかを知っていたのかもしれない」
「えっ、それってどういうこと?」

 左右は何を考えているのかわからない様子で、ただ真っ直ぐ前を向いて歩き続けている。
 キヨさんは万年筆のありかを知っている? それならなぜ依頼などしてきたのだろうか。いや、そもそもどこにあるのか分からないと言っていたのだ。それならばキヨさんは痴呆症とかそう言った類の病気だと左右は言いたいのだろうか。けれど実際話した感じからそんな風には到底思えなかったのだが……。
 わけが分からないが、左右はそれ以上は何も言わない。みーこさんと僕は顔を合わせて首を傾げた。