僕と元彼女は一度は縁が繋がっていた。三年も一緒にいたのだから、間違いなく縁が繋がっていたはずだ。
 それなのに僕達は別れてしまった。別れてからは一度もお互いに連絡を取り合っていない。彼女には好きな人がいて、僕は切り捨てられたのだ。僕と繋がっていた縁とやらは、切れてしまったのだろうか……。それとも僕が錯覚していただけで、実は僕達の間には縁など元々なかったのだろうか。

「……あの、せっかくなのでお仏壇に手を合わせてもよろしいでしょうか?」

 みーこさんは部屋の中をキョロキョロとした後、キヨさんに向かってそう言葉をかけた。
 この部屋には仏壇は見当たらない。けれどキヨさんの旦那さんもお子さんも無くなっているのならば、仏壇はどこかにあるはずだ。……と、みーこさんはそう思ったのだろう。

「とは言っても、本当に散歩がてらに覗きに来ただけなので、何のお供え物も用意していないのですが……」

 恥ずかしそうにそう言うみーこさん。けれどとても大学生の子から出てくるような気遣いではないと僕は感心していた。僕の会社の人間にもみーこさんの爪の垢を煎じて飲ませてあげたいくらいだ。

「いいのよ、そんなの気にしなくて。手を合わせてくれるのならきっとあの人も喜ぶわねぇ」

 よいしょ、と勢いをつけてキヨさんは立ち上がった。

「じゃあせっかくなので挨拶してあげてくれるかしら? あの人はみーこちゃんの事をよく可愛がっていたものね」

 ああ、やはり。みーこさんはあの神社で育ったから、お参りに来ていたキヨさんのことも、キヨさんの亡くなった旦那さんとも顔見知りだったのか。
 それならみーこさんはキヨさんの息子さんのことも知っているのかもしれない。そんな事を思いながら、僕はキヨさんとみーこさんの後を追って、隣の部屋へと移動した。