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 次の日の朝、僕は散歩に出かけると言いながら、昨日来たあの豊臣神社の階段下で僕はウロウロと右往左往していた。
 みーこさんの依頼を断っておいて、今更のこのことやって来てやっぱり手伝いますとは言い難い。その上、そうすると左右の反応も想像しただけでなんていうか、腹が立ってくるし。
 だけど、ちょと気になってしまったのだから仕方がない。あのキヨさんというおばあさんの願い事、ちゃんと叶うのだろうか。
 いや、左右は曲がりなりにも神使だ。神の使いだ。サイキックパワーだってある。いくらへぼい力だとしてもあるものはある。

「誰がへぼい力だって?」

 鋭利なナイフが飛んで来たかと思うほど、殺人的な冷たい声が僕に向かって飛んで来た。それはもちろん左右のものだ。神使なのに殺人的な声ってやばいな、なんて思いながらも僕は声のした階段上へと視線を上げると——。

「あっ、佐藤さん! おはようございます」

 僕の癒しの巫女、みーこさんが手を天へと突き上げてブンブンと僕に向けて振ってくれている。そんな無邪気な姿を見ただけで、ここへ来て良かったと思えてならない。

「今日もお参りに来てくださったのですか?」
「あっ、いえ、それが……」

 なんて説明しようか。僕は昨日の手紙の内容が気になってやって来たのだが。

「今からキヨの家に行く。ついて来たいなら勝手にしろ」

 そう言って、左右は僕の横を横切って行く。言っている会話の内容がよくわからないと言った様子のみーこさんは、僕の顔を何度かチラチラと見つつ、左右の背中へと視線を向けている。

「えっと……あんなこと言ってますけど?」

 みーこさんは首を傾げながら左右の背中に向けて指を指した。その様子に僕は頭を掻いて苦笑いをこぼす。

「せっかくなので、行ってもいいですか、ね?」
「はいぜひ!」

 みーこさんは瞳をキラキラと輝かせてくれている。その様子だけが僕にとって救いだった。
 昨日の今日で意見をコロッと変えるなど、なんて意志薄弱な大人なんだ……なんてみーこさんに思われてはいないだろうか。僕がみーこさんくらいの頃、27歳とはかなり大人だと思っていた。大学生の自分とは違う、アダルトな世界に片足どころか両足をぶっ込んだ大人だと思っていた。そんな大人になった僕はきっと意志薄弱などではなく、スマートで卒なくこなす人間になるのだと思っていたし、そうなると心に決めていた。
 きっとみーこさんから見た僕はそういう大人なのだと思う。だからこそそんな大人ではないと思われるのは、葛藤する気持ちがむくむくと……。

「ああ、左右を見失っちゃう。私達も急ぎましょう!」

 みーこさんは僕の腕をぐいっと掴み、駆け出した。