「それでばーちゃんは結婚を承諾したんだ?」
「そんな事くらいで簡単に承諾なんてするかいなぁ」

 そう言いながら、ばーちゃんは再びかっかっかと笑って僕の秋刀魚にコメの水玉模様を描いた。

「百回なんかで足りんから、千回して来たら考えてあげるって言ったんよ」

 ……お、鬼だな。なんて孫の僕は思った。しかも千回したところで結婚できるわけでもなく、考えるだけというところが鬼だ。

「結局じーちゃんは千回お参り行ったの?」

 ばーちゃんが結婚を承諾したのだから、きっとそういう事だろう。千回もお参りした根性を認めたとか。そう思っていたが、どうやら僕の考えは甘かったようだ。

「するかいな。けどじーさんはばーちゃんに嘘ついて千回したって言ってたけどなぁ。それが嘘か本当かはばーちゃんには分かるのに」
「なんで分かるの?」
「千回お参りしておいでって行った後、次の日に千回済ませたって言ってたからねぇ。そんな一夜でできるもんかいね」

 なるほど。ばーちゃんも無茶だけど、じーちゃんもなかなかだ。

「じゃあなんでばーちゃんはじーちゃんと結婚したの?」

 ばーちゃんはお味噌汁を一口すすった後、少し懐かしむような様子で味噌汁に視線を落とした。

「じーさんは長男で下の子達の面倒を見ながら、病気がちなおっかさんの面倒もよく見てたからねぇ。畑仕事もちゃんとして、よく働く人だったんよ。そんなじーさん見てたら、きっとばーちゃんが年取って動けんようになってもじーさんは良くしてくれるかもなぁって思ってなぁ」

 ばーちゃんとじーちゃんの馴れ初めを聞くのも初めてだけど、こうしてばーちゃんの考えを聞くのも初めてだった。初めはじーちゃんと結婚を考えてなかったかもしれないけど、僕は孫として二人の様子をみてきた。阿吽の呼吸とでも言うのだろうか。培った年月は二人の歴史そのものなのだと、二人の様子から見て思ったことがある。
 なんて言うか、僕もばーちゃんとじーちゃんみたいな夫婦に憧れる。

「けど、じーさんはばーちゃん置いて先にさっさと死んでもーたけどなぁ」

 そう言って、ばーちゃんは再びかっかっかと口を開けて笑った。