「そのお願いというのは、私の代わりに左右と一緒に調査に回って欲しいのです」
「一度引き受けておいてなんですが、謹んで辞退させていただきます」

 僕は間髪入れずそう切り返した。いくら麗しのみーこさんの頼みでも、それはさすがに無理だ。どう考えても僕と左右はウマが合わない。磁石で言うところのプラスとプラス、もしくはマイナスとマイナス。同一の電極同士が弾き合うように、僕達が仲良くくっつくことは決してない。
 出会ってまだ一時間と経っていない今でこれだ。どうあがいても関係が修復することもなければ、改善していく見込みもない。

 武士に二言はないと言うが、僕は武士でもなければ侍の魂とも呼べる刀も持ち合わせていないただの日本男児だ。刀は銃刀法違反に反するし、僕は侍魂よりも法律を遵守する真面目一徹な男だ。残念だがそんな僕には二言も三言もあるのだ。


「そんな……左右はあのような物言いばかりしますが、きっと私以外で見えた人物に出会って戸惑っているだけだと思うのです!」

 みーこさんにそこまでして必死に力説されると、思わず心変わりしそうになる。きっと先の失恋で深い傷を負い過ぎたせいなのかもしれない。なんとも僕の弱りきった心が憎い。

「満己、佐藤さんをあまり困らせてはいけないよ。佐藤さんは普段仕事で忙しくされていらっしゃったようだし、これはゆっくりとするいい機会なんだから、その邪魔をしてはいけない」

 おっ、さすがはみーこさんの父親だ。なかなかいいアシストをしてくれる。いっ時は役に立たない人だと思った非礼を詫びよう。
 みーこさんは残念そうに子犬のような目で僕に訴えかけているが、それに応じてはいけないと僕の本能が言っている。

「……そうだね、うん。佐藤さんすみませんでした。私の我が儘に突き合わせようとしてしまいました。よくよく考えればただ参拝に来てくださった佐藤さんにお願いするのは間違っていましたね。人助けはこの神社の巫女である私の役目でもあるのに……」
「いえ、そのように気落ちしないでください。僕も手伝えることがあればと思ったのも正直な気持ちですから」

 けれどあの左右だけはダメだ。あいつと共に行動するなど僕の神経がすり減って、最後にはきっと消えて無くなってしまうだろう。

「いえいえ、いいんです。左右が見える方が私の他にもいるんだと知い、失礼にも仲間意識を持ってしまったのがいけなかったのですから」

 ……うぐっ、そんな言い方をされるとちょっと心がぐらつくな。他でもない麗しいみーこさんから放たれる仲間意識という言葉に僕はどうやら魅力を感じてしまっているようだ。