「とにかく、神通力という力があるのであれば僕の出る幕はなさそうに思うのですが……?」

 さりげなく辞退する方向に話を持っていこうとするが、みーこさんは全然引く様子はない。

「いえ、神通力と言っても万能ではないようで、見える、聞こえるのにも一定の距離までしか使えないようなんです。例えば物を探すとなれば、その関連した物の場所に出向き、足跡を辿るといった感じなので」
「ではその距離というのはどの程度のものなのでしょうか」
「えっと、五メートルくらいかと」
「えっ!」

 短っ! 五メートルって目と鼻の先じゃないか! なんだその距離! 全然役に立たな……。

「いてっ!」
「こら、左右!」

 みーこさんの言葉に甘えて崩していた足。すっかり痺れも取れかけていたその足をこの悪鬼に思いっきり踏みつけられてしまった。

「気分が悪い。その依頼は俺一人でやるから気にするな」
「そんなこと言っても……」

 そんな風にみーこさんは引き止めようとしているが、僕はさっさとどこかへ言ってしまえと強く念じた。すると左右は再び僕の逆側の足を踏みつけ、僕が悲鳴をあげたと同時に、姿を消した。
 文字通り、こつぜんと消えたのだ。

「本当に、左右は神使なんだ……」

 足の痛みも忘れて、僕はひとりごちた。今さっきまで僕の隣に立っていた左右の場所に視線を向けたままで。

「あれ、まだ疑っていたのですか?」

 みーこさんは若い女性らしくケラケラと笑っている。隣に座るみーこさんの父親は一連の流れが見えていないせいで静かにお茶を飲んでいたが、この一言に「私には見えないので羨ましいですよ、本当に」と少し悲しそうに笑っている。
 なんだ、本当に見えていないんだ。本当に左右は神使で、左右が見えているのは僕とみーこさんだけなのか……。
 いや、一度は認めはしていたのだが。けれどこうやって実際に目の当たりにすると、ほんの一握りの疑念も根こそぎ消えていた。むしろ疑いようがないではないか。
 僕はお化けなど信じていない。それは見えないからだ。そんな霊的体験もしたことがないからだ。けれど体験してしまったら——信じるしかないじゃないか。