・三丁目のトマさんの家の脱走猫、ミケランジェロは二丁目で迷子になっている模様。

・老眼鏡をいつも無くすイサムさんは犬小屋の中を探してみるといいらしい。犬が隠し持っている可能性◎

・隣町のコウジさんの持病のぎっくり腰に関しては、重いものを持とうとせず、毎日散歩を欠かさずにいると良いでしょう。これ以上悪くならないように当神社でも神様に祈りを捧げます。

 ……とまぁ、こんな内容がその新聞には書かれている。また、今月の吉凶や方角などについて占いのようなことを踏まえ、神社での催し物のスケジュールなも書かれていた。
 そして最後にはねずみのイラストが筆で描かれている。

 ああ、そういえば今年の干支はねずみだったな。なんて思いながら、僕は神社の鳥居を見上げる。急な傾斜の石畳。何段あるのだろう。

「ちょっと、寄り道してみるか」

 なんて言って、僕が階段を上り始めたその時だった。

「ちょっとそこのお兄さん。豊臣神社に行かれるの?」

 背後から声をかけられて振り返ると、そこには腰を曲げて優しい笑みを携えたおばあさん。

「豊臣神社……?」

 神社の鳥居の真ん中には表札のように神社の名前が刻まれているが、僕の位置から、僕の視力では読むことができない。

「えっと、この神社のことですかね? ちょっと覗きに行ってみようかと思っていますが……」
「あら、このあたりの方じゃないのね? 上まで覗きに行こうとしてるのなら、この手紙を松の木の麓にあるおみくじを結ぶところに結んできてくれないかしら?」

 そう言って差し出されたのは、おみくじの要領で縦長に折られた手紙だった。

「いいですよ、どうせついでですから」

 僕が手を伸ばしてそれを受け取ると、嬉しそうに笑っておばあさんはポケットから小銭入れを取り出した。

「ありがとうね。この急斜面の階段は腰にくるのよ。助かったわ」

 言いながらも小銭入れから50円玉を取り出し、それも僕に差し出している。お駄賃? それにしては今時こんな金額では子供だっておつかいを頼まれないんじゃないか……って一瞬思ったけれど、どうやら違うようだ。

「ついでにお賽銭もお願いね」
「ああ、わかりました」

 なんだそっちか。なんて思いながら僕は手紙とお賽銭を握りしめた。

「ちなみにこれって、あの新聞に書かれてる相談事ですよね?」

 おつかいついでにと思い、僕はあの掲示板に貼られたあやかし新聞社の紙を指差した。
 するとおばあさんは首を縦に何度も振りながら笑っている。

「そうそう。どうしても来月までに見つけないといけないんだけど、どこにやったか忘れちゃってね」

 歳をとるって嫌ねぇ、なんて言いながらおばあさんは空気を叩くように手を振った。

「ここの神様に助けてもらおうと神頼みに来たの。だから代わりにお願いね」

 神頼みに来た割に、あっさり他人の僕に手紙を預けるあたり、そこまで大した探し物ではないのだろうな。なんて不謹慎なことを思いながらも、僕は微笑みを返した。

「わかりました。しっかり僕が上まで届けます」
「ありがとうね」

 そう言って、僕とおばあさんはそこで別れた。僕は上に登る使命を感じながら意気揚々と階段を一歩一歩登っていく。