そう言うお前は本当に口が悪いな。
 そう言い返そうとしたら、この少年は僕がそれを口に出す前に僕の脛を思いっきり蹴り上げた。まるで稲妻でも降ってきたのかと思う勢いで、僕のか弱い向こう脛は電気が走ったようにビリビリと痛みが駆け巡る。

「……!」
「大丈夫ですか?!」

 痛みが頂点に達した時、僕は思わずその場に蹲った。踏まれた足を抱えながら。声にならない声を発しながら。早くこの痛みが退いてくれることだけを神様に祈りながら。
 滑稽な話だ。神様の御膳で、神様に仕えているという神使だと名乗る少年が、僕の足を蹴り上げ、その痛みを緩和してもらうように神様に祈っているのだから。
 今だけはみーこさんの優しい声も、僕にはなんの安らぎも与えてはくれない。

「ふん、バチだな」
「こら、左右(さゆう)。いい加減にしなさい。この方は依頼の手紙をわざわざここまで運んできてくれたんだよ」

 左右と呼ばれたこの少年に向かって、意外にもしっかりとした口調でそう叱りつけた。その様子はまるで兄弟だ。やはり僕は二人の”ごっこ遊び”に付き合わされているのだろうか。

「お前まだ、そんなこと言ってるのか」
「左右!」

 みーこさんは怒りを露わにしながらも、僕の顔を覗き込むように屈んだ。顔が近い。肌艶が綺麗なみーこさんから何やらいい匂いがする。かと言って大人になってオフィスで嗅いでいたような人工的な香りではない。きっとこれは衣類から香る柔軟剤の匂いだろう。
 そんな距離でみーこさんと接している僕は、現金にも左右のことを許してもいいかと思えるほど心が邪念に囚われ始めていた。

「単純だな」

 なんて追加の言葉を投げてくる左右すら、今の僕は無視をすることにした。何せ男なんて単純な生き物だと僕は思うからだ。

「みーこさんはいつからこの少年が見えているのですか?」
「この子が神使だって、信じてくださるんですね?」
「あっ、いえ、まぁ……」

 これだけ僕の考えていることを読まれてしまっているのだ。まだ疑心暗鬼なところはあるが、彼が何かしら変わった力を持った持ち主であることは間違いないのだ。

「私は物心ついた頃から左右が見えています。そこにいるのが当たり前で、普通に人だと思って接していました」

 みーこさんが顔を上げて、左右に視線を投げる。眩しそうに太陽の光をその細い腕と綺麗な指で目の上にひさしを作りながら、話を続けた。