「……やっぱり」

 どきり、と思わず心臓が跳ねたのは、麗しの巫女がそんな言葉をまじまじと言ったからだ。まるで鼻の下が伸びているのを肯定された気分に陥る、神妙な様子が原因だった。

「やはりあなたには、この子が見えているのですね」

 ……そっちか。
 というか、その話からすっかり脱線してしまっていた事に気づき、僕は一旦この子憎たらしい少年のことは脇に追いやり、再び彼女と向き合った。

「見えるとは……? おっしゃる意味があまりよく理解出来ていないのですが?」

 素直に認めてそう言うと、麗しの巫女は「うーん」と唸りながらも、人差し指と親指で顎を挟んだ。まるで探偵ドラマの探偵が、考え込む時にやりそうな使い回されたポーズそのものだった。

「不思議ですね。この少年は私以外に見えたことがないんですよ」
「……はい?」

 見えたことがない? 麗しの巫女以外に?
 ……そんなバカな。その話の方が僕からすれば不思議でしかないのだが。

「変なこと言って、すみません……」

 そう謝りながら、彼女は小さく頭を下げた。
 頭を下げた時に揺れる、サラサラとした漆黒の髪を耳の後ろにかけながら、はにかんだ笑みを僕に向けている。
 なんだ、よく分からないけれど冗談だったのか。もしかするとこういう冗談が、大学生の間で流行っているのかもしれないな。

 僕はあまりテレビを見る方ではない。見るのはもっぱら映画か、時々ニュースを流し見する程度。ばーちゃんの家に来てからは規則正しい生活を送っているため、テレビは全く見なくなった。
 そのため、もしかすると僕は流行りというのに乗り遅れているのかもしれない。

 ……そんな風に思っていた矢先だった。

「ですが、本当のことなんです」

 その一言で、僕の頭は再び混乱し始めていた。