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「最近、依頼がなくてなんだかやる気も出ないねー」
「依頼などない方が良いにきまっている」

 左右ってば相変わらず淡々と正論を唱えてくれる。
 左右は昔から変わらない。姿形も同じで、成長しない。幼い頃は左右の方が年上だったのに、今では私の方が上だ。

「みーこの方が年下なのは変わりないだろう」
「そうだけど、私は見た目の話をしてるのよ」

 こうやって揚げ足取るところも昔と変わらない。
 私の生活も変わらない。私はこの神社が好きだし、神様に仕えてるのは誇りを持ってる。だから転職とも言えるこの場所で過ごすのにはなんの問題もない。
 だけど、時々ちょっと物足りないというか、エネルギーを発散する何かが欲しいというか……。
 最近は参拝客も増えた。キヨさんも毎日のように顔を出してくれるし。
 けどもう一人毎日顔をだしてくれていた佐藤さんは帰っちゃったから、次会えるのはいつかな?
 なんて机に突っ伏しながらうなだれていると……。

「お前の暇つぶしであれば、もうすぐやってくるだろうな」
「……なにそれどういう……? あっ、それって依頼が入るってこと!?」

 いや待った。誰か困っている人がいることを、こんなに喜んではいけないわ。それは神職に仕える者としてダメ。
 私は背筋を正し直して、表情も引き締めた。

「みーこがワクワクしてる時は、いつもそういう顔をする。みーこは昔から偉ぶるのが得意だな」
「失礼ね。こういうのを大人びているっていうのよ」

 さて、外の掃除でもしようかな。そう思って一度大きく伸びをした後、社務所の扉を開けた。
 すると——。

「あっ、お久しぶりです」
「あれっ、佐藤さんじゃないですか。どうしてここに?」

 舍手洗で手を洗ってきたばかりなのか、佐藤さんはハンカチで手を拭きながら歩いているところをばったりと出くわした。

「実は……って、僕まだ本殿にご挨拶できていないので、少し待っていていただけますか? すぐに済ませてきます」
「えっ、それでしたら私も一緒に行きます!」
「えっ?」

 なんでなんで? なんで佐藤さんがここに? 東京に帰ってから一ヶ月くらいだよね? 今日は平日だから佐藤さんのおばあさんのところに遊びに来たっていうわけでもなさそうだし……。
 疑問がどんどん増えて、溢れてくる。ちょっと待てそうにもないので私は一緒に佐藤さんと本殿に手を合わせましょう。そうしましょう。

「では、一緒に行きましょうか?」
「はい!」

 戸惑った様子がみて取れるけど、私は気にせず佐藤さんと共に本殿へと向かう。