……そう思うのに、僕は二つの感情がいつも同時に沸き起こる。そのもう一つの感情は、どこかそれを寂しいと思っているということだ。
 僕はどうやらドMだったようだ。これは由々しき事態である。あんな小僧の態度に快楽を感じていたことになる。なんということだ。どうやら僕はあの神使と関わりすぎて毒されてしまったようだ。禊がなければ。神社を出る前にまた手水舎に寄って手を洗おうと決めた。

「先ほど満己から聞きましたが、佐藤さんは明日ここを発たれるんですね」
「そうなんです。短い間でしたが、お世話になりました」

 僕はさっきした挨拶の会釈よりも深めに頭を下げた。すると今度は慎二さんが僕にならって頭を同じくらい下げてくれた。

「いえいえ、新聞づくりのお手伝いや凛花ちゃんの時など、こちらこそたくさんお世話になりました」

 依頼はこずえの後から一件も来ていない。こずえのも結局は取り消したのだから件数にカウントするのもなんだが。
 みーこさん曰く、これが普通の件数らしい。なかなかあやかし新聞社は暇なようで、けれどそれは人々が困っていないということで良いことなのかもしれないが……。

「またこちらに来た時は、神社に顔を出してくださいね」
「はい、もちろんです」

 僕と慎二さんは再び頭を下げて、挨拶もそこそこに立ち去った。
 慎二さんと話をした後、みーこさんとたわいない会話をし、そして僕は神社を後にした。
 神社を出る時、階段を下りる途中で何気なく後ろを振り返ると、あの大きな鳥居の上に座る子供の姿が見えた気がした。
 ……けれどもう一度目を凝らして見てみると、そこには誰もいなかった。

「……ありがとうな」

 僕はそう声に出した後、神社の階段を下りきった。