「そこにいるこの子が、見えているんですか……?」

 んー?
 僕は思わず首を傾げた。まるで柳の枝のようにしなだれたと言った方が正しい表現なのかもしれない。
 麗しの巫女が言う意味がやはりよくわからない。これはジェネレーションギャップというものなのだろうか。そうだとすれば、僕は自分で思っていた以上に歳を重ねていたようだ。いや、年齢は年輪だ。歳は重ねていい。むしろ重ねるのが普通だ。だからそれに抗おうなどと毛頭にもない。それが僕の持論でもあった。

 ……が、このように若い世代についていけなくなったのはそれは悲しいことだ。僕も世間で見れば若い部類に入ると思う。今年で27歳になる。まだこれから油が乗る働き盛りだ。
 だがしかし、大学生と27歳とでは大きな開きがある。たとえ相手が22歳だとしても5歳も年齢に差があるし、そして社会に出たかどうかもまた世界を分断する一つになる。

 大学生と社会人とでは、たとえ同じものを見ていたとしても、見えている世界が全然違うのだ。
 とすれば彼女が言う意味を僕は理解できなくて当然なのかもしれない。

「……お前、本当にめんどくさい奴だな」

 僕が麗しの巫女の言葉の意味を解析しつつ、理解できないことに対する思考を脳内で繰り広げている間、この少年はゲテモノでも見るような目で再び失礼極まりないそんな言葉を放ったのだ。

「めんどくさいとは失礼だぞ」

 麗しの巫女の手前だ。むかっとする気持ちは一旦心の隅に留めながら、大人としての対応を見せたいところだ。
 僕は大人だ。だからこそこれくらいで小学生のこの少年に怒りをぶつけるなどという無様な姿は見せない。社会に出て僕は学んだ。いの一番に学んだこと、それが、‘’大人の対応‘’というものだった。

「鼻の下が伸びてるぞ」
「……!」

 僕は瞬時に両手で鼻を隠した。鼻の下が伸びている……それは一大事だ。チカンやセクハラ。これは僕が一番忌み嫌うもの達だ。何せ上司との飲み会という名の接待で、頭がハゲ散らかりかけている輩に限ってそういう事を女性にするのだ。

 僕はそういう光景を何度か目の当たりにしている。パワハラと言われても過言ではないシーンもあった。僕の周りにいる女性陣はたいていが年上か、同期だ。同期は気も強く、肝も据わっているためパワハラをうまく切り抜けていた。
 だがそれでも、見ていて気分がいいものではないと僕は思っていた。だからこそそんな大人にだけはならないように努めてきた、つもりだったのだが……。