(あれ……)

 ついさっきまで全く古着を見るような気分ではなかったのに、手は迷わずにひとつのハンガーを取った。

 ハンガーにかかっていたのは、何の変哲もない、細身のデニムだった。足首まである、裾の長いタイプだ。

「どうぞ、お着替えを」

 男が言うなり、少年に試着室に連れていかれる。

 なぜか、美波にはもう抗う気がなかった。

 むしろ、選んだデニムを履かなければならないと思っていた。

 彼女はスカートを脱ぎ、デニムに足を通す。

 と、デニムは不思議なことに彼女の足の細さ、ウエストサイズにぴったりとフィットした。

 裾さえ、直す必要がないくらいぴったりだ。

 まるでもともと自分のものだったかのような感覚に、美波は戸惑った。

「とてもお似合いです」

 男は口元に微かな笑みを浮かべ、試着室から出た美波を奥の部屋に誘導した。

 ドアを一枚隔てただけで、古着全体に漂っていた甘い匂いがなくなる。

 その代わり、嗅いだ覚えのある別の香りが美波を迎えた。