「いらっしゃいませ」
店員に声をかけられ、もう一歩中に踏み入った美波は、目の前に広がる光景に絶句した。
カフェかと思った店は、そうではなかった。部屋一面に、服がかけられている。
所狭しと並ぶハンガーラックに、着物、ドレス、コート、ニット、スカートなどなど。棚の中には靴やバッグなどの小物がずらりと並んでいた。
(服屋さん……だけどなにこの統一感のなさ)
レトロよりも骨董品と言った方がよさそうな着物があるかと思えば、量販店で売っているような無地のパーカーまで並んでいる。
「ようこそ、古衣堂へ」
声をかけられ、すっかり呆気に取られていた美波はやっと我を取り戻した。
振り返ると、いつの間に現れたのか、店員らしき男が立って彼女を見ている。
男は二十代半ばくらい。青い細かな模様の着流しに黒い帯を巻き、黒い羽織を肩に掛けている。
漆黒の前髪の間から、金色の両目がのぞいていた。