「さあ。大丈夫さ、人間でもあるまいし。あやかしは自由だからね」

 古着から意志を解き放たれたあやかしはみんな、古衣堂を離れていく。

 その後の世話までは、霧矢の範疇ではない。

「それはそうと、また入ってきたんですね」

 仔狗は食器を載せたお盆を持って、ぽてぽて走っていく。

 霧矢の前には、数点の古着が広げられていた。

「ええ」

 彼の長い指が、古着たちをいたわるように撫でる。

「あなたたちもすぐに、最適なお客様に出会えるといいですね」

 古着たちは応えず、沈黙を破っていた。


 ここはかくりよ門前町、古衣堂。

 彷徨う魂とあやかしの想いが交錯する場所で、古着たちは今日も次の訪問者を待っている。


【終】